2019年10月10日木曜日

高校生に化学構造式を講義

都内私立T高校から高校1年を対象に出前の講義を頼まれた。
2年生から文系理系に分かれるらしいが、その前に模擬授業によって学部、系統の様子を知り、進路選択の参考にしたいという。

外国語、心理、法律、経済、教育から物理、機械、電機、医療、看護、体育、福祉、獣医など26系統について、26の大学から講師を呼び、生徒はそのうち2つ選んで講義を聞く。
つまり講師は同じ話を二回する。
私は薬学部について頼まれた。
2019-10-09
大学進学後の勉学、卒業後の就職のことなど想像できるような講義にしてほしいとのこと。
しかし、そういうことは大学の授業を易しくしたくらいでは分からない。
だから昨年まで、模擬授業ではなく、「薬剤師について」とか「薬の歴史・初めての近代的医薬品サルファ剤」といった講演をしてきた。

今年は「可能な限りアクティブラーニング形式で」との要望あり。
アクティブラーニングとは、たいてい小グループに分けて生徒同士で討論させて発表させるものが多い。教育評論家や文科省は好きなようだが私は大嫌いである。
同級生のありふれた退屈な意見を聞かなくちゃならないし、テーマはまじめで、模範解答が分かったりする。声の大きいものの結論に誘導される。とても教育的とは思えない。

そもそもアクティブラーニングがそれほどいいなら、授業せずに生徒個人で勝手に図書館で調べ物、勉強させればよい。グループ討論では、何もせずに座っている生徒がいる。どこかアクティブか? 自習のほうがずっとアクティブだ。

とはいえ、無視するわけにもいかない。
空欄のあるプリントを配り、書き込ませることにした。
書くという動作で「アクティブ」とする。

テーマは「構造式を書いてみよう!」
目標は「高校1年生にして高校3年生を追い越す」

物質は成分(分子)からなり、分子は原子からなる。
原子のつながり方が分子の化学構造式である。

ブタノールとジエチルエーテル、パラアミノ安息香酸とパラニトロトルエン。
同じ分子式でも構造式が違うと全く違う性質になる話。

リノール酸とオレイン酸、アドレナリンと覚せい剤。
構造式が似ている化合物の共通点と相違点。

40分しかないから構造式をどんどん書きまくる。
2019-10-09
この講義は『スパイス、爆薬、医薬品ー世界史を変えた17の化学物質』(中央公論新社2011)を参考にした。
この本は、私が訳した7冊のうち一番売れた。
7版まで増刷され、メディアの書評、個人のブログはもちろん、ビブリオバトルで取り上げられたり大学入試(鹿児島大医学部二次)に使われたりした。


内容は、化学物質と歴史について書いた本だが、じつはもう一つのテーマとして、構造式の重要さ、化学構造と物性の関係についても述べている。


生徒はみな熱心で、まじめな顔で鉛筆を動かしていた。

終わってから、一番前にいた生徒のプリントを見せてもらった。
しっかり黒板を写している。
構造式というのはある程度知識がないと正確に写せない。
昨年まで中学生であったことを考えると、彼はかなり優秀である。
化学が好きなのだろう。
2019-10-09
この日の帰り道、庭に植えようと泥ネギを探しに、駒込病院そばの八百屋をのぞいたらバナナが安かったので買ってしまった。古いというか熟しすぎだが16本あった。
「こんなにいっぱい、どうするの!」と妻に怒られた。


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