権威者とマスコミ、裁判所は、これと同じ結論を下したのである。
前回、
「スモン患者の85%がキノホルムを飲んでいる」
という結論のもととなった調査が誤り(もしくは故意?)であると書いた。
100歩譲って、結果と原因を一緒にしているという根本的な誤りに目をつぶり、
服用率85%が正しいとして、なお3つの初歩的な問題がある。
1つは、
スモン協議会の権威者たちや原告は、キノホルム服用率の85%は、サリドマイドの服用率80%と比べても高く、文句なしとした。
しかし、サリドマイドは
・障害児を生んだ母親の服用率が 80.4%
・健康児を生んだ母親の服用率が 1.8%
という、この大きな差で犯人とされたのである。
だから、長期にわたる激しい下痢をして、
・スモンになった人のキノホルム服用率 85%
・スモンにならなかった人のキノホルム服用率 ?
を比較しなくてはならない。
このデータがあったのである。
国立呉病院第一内科 大村一郎 グリーンブック No2 p60 (1971)
すなわち、昭和43年に当院の内科を受診した7496人のうち、
スモン患者のキノホルム服用率 76%(107人中82人)
下痢患者のキノホルム服用率 73%(119人中87人)
で、スモン協議会の臨床班員である大村は、
「有意な差を認められないことから考え、キノホルムに毒性があるとするならば、SMONを発病した個体側あるいはもう一つ何かの因子が組み合わされる必要があり、その因子も重大な役割をしているのではないかと想像する」
と結論した。
これは権威者が集まったスモン協議会の公式報告書である。
何故か無視されおり(当然か?)、批判的な文献1,疑問点を説明する文献2にもなかった。私も今回調べているうちに初めて知った。
「スモン患者の85%がみそ汁を飲んでいた。だから味噌汁が原因である。」
権威者とマスコミ、裁判所は、これと同じ結論を下したのである。
2つ目は、
キノホルムを飲まなかったスモン患者が15%いることである。
これは早くからスモン協議会でも反対派のあいだでも問題になった。
飲んでいるが把握できなかったのではない。
アンケートでは890人のうち、
あり 610
確実になし 110
ないらしいが不確実 22
不明 148
で、不明の148人を除いた、
アリが、82.2%
確実になしが 14.8%
「ないらしい」をいれれば 17.8%である。
いったい、結核菌に感染していない結核患者が15%もいるだろうか?
HIVに感染していないエイズ患者が15%いるだろうか?
考えられるのは、
1.キノホルムが犯人ではない
2.スモンでない神経疾患が15%混じっている。
どちらかしかない。
1970年9月8日のキノホルムの販売禁止という行政措置の後、一気に患者がゼロまで激減するのだが、この15%分も消えてしまうのである。
すなわち、スモン患者が出ても、9月8日以降はスモンと届けなかったことを意味する。
3つ目は、統計処理の問題である。
890例は、18人のスモン協議会の班員が集めた。
ところが、キノホルム服用率は班員によってばらばらである。
(グリーンブック No2 p261)
非服用者(確実になし)は
椿忠雄 35人中 ゼロ
伊東弓多果 28人中 ゼロ
藤原哲司 62人中 ゼロ
ところが
小坂淳夫 29人中 19(66%)
杉山尚 19人中 7(37%)
大村一郎 135人中 43(32%)
班員によってこれだけ違うものは施設によるバラつきではなく、同じ現象を見ているとみなさない。
だから合計して解析、85%という数字は出せない。人間と犬を混ぜて平均寿命を見るようなものだ。
なぜ、こんな差が出たかというと
調査票の
「キノホルム剤服用調査票」というタイトルと、そのすぐ下の注意書き「確実なスモン患者で、発病前後の服薬状況の明らかなものを対象とする。従って、できれば貴施設の自験例であることが望ましい」
に引きずられ、キノホルム服用者だけ集めた班員がいたのではないか?
また昭和46年全国の医師に送ったキノホルム服用率の調査票も
「確実なスモン患者で発病前後のキノホルム剤の服用状況が明らかなものの」
(グリーンブックNo8,p89)
としていたら、新聞でスモン=キノホルム原因説で騒がれている状況では、確実に飲んでいない患者の報告をためらう医師もいたのではなかろうか。
また、田辺製薬の解析室長・朝尾正は、スモン協議会報告書を読みこみ、班員の把握するスモン患者数を抽出した。すると平木班員以外、ほとんどの班員はごく一部しか報告しなかった。
椿 55人中33人
杉山 190人中20人
豊倉 398人中60人
この選択基準は何か?
服薬状況のはっきりしている者に限ったというなら、調査票の服薬状況「不明」「ないらしいが不確実」が出てくるのはなぜか?
自説に都合のいいように患者を選んだと言われても仕方がない。
(続く)
参考文献
1.謎のスモン病 高橋秀臣 行政通信社 (1976)
2.田辺製薬の「抵抗」 宮田親平 文芸春秋社 (1981)
3.スモン調査研究協議会研究報告書(グリーンブック) No1~No12 (1969-1972)
4.厚生省特定疾患スモン調査研究班 スモン研究の回顧 1993
5.スモン・薬害の原点 小長谷正明 医療 63, 227 (2009)
6.スモン病因論争について(1)~(4) 増原啓司 中京法学15, 1980
3-5は権威者側、1,6はそれに疑問を呈したもの、2は一連の経緯を説明するものだが原告寄り。
日本医師会図書館(本駒込)
公式報告書である文献3は、色からグリーンブックと言われた。
昭和47年度からは厚生省特定疾患スモン調査研究班研究業績となり、ベージュとなった。
スモン調査研究協議会研究報告書(グリーンブック)
No1 昭和44年度疫学班 45年11月
No2 昭和45年度臨床班 46年3月
No3 昭和45年度病原班 46年3月
No4 昭和45年度病理班 46年3月
No5 昭和45年度疫学班保健社会学部会 46年3月
No6 昭和46年度治療予後部会 47年3月
No7 昭和46年度保健社会学部会 47年3月
No8 昭和46年度疫学部会 47年3月
No9 昭和46年度キノホルム部会 47年3月
No10 昭和46年度微生物部会 47年3月
No11 (欠番)
No12 昭和46年度総括報告 47年3月
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