信州にいた子どものころからネクタリンが好きだった。
桃よりもすっぱくて味が濃い。
1989年6月、初めて家を買った。ちょうどバブルのころで、埼玉県北足立郡伊奈町という田舎の、小さな中古住宅だったが、土の地面を得た。
狭い庭にスチール製の古い物置があったが、翌90年に壊してスペースを作った。
ここに真っ先に植えたかったのがリンゴでもミカンでもなく、ブドウでも桃でもなく、ネクタリンだった。長野の父に頼んで苗を買ってきてもらった。
91年夏の写真には育ちつつある若木が写っている。
しかし実が生るのに3,4年かかるうえに、93年8月から1年留学、帰国して2年も経たずに大宮市に引っ越した。だから初めてのネクタリンは実が1つ2つ生ったことは覚えているが、他に記録、記憶がない。
1991年5月?
唯一うつるネクタリンの写真(右上隅)
都会の素人はナス、キウリは作れても旨いフルーツは無理だと思っていた。しかし千駄木に来て、試しに温州ミカン、甘夏を植えたところちゃんと実がつき十分食べられた。
それに味をしめ、サクラの大木を切って日が当たるようになった庭の隅に不知火をうえ、桜の切り株を除いた跡にせとかをうえた。
そして今年の秋、イチジクを切ったあとに念願のネクタリンを植えようと決めた。
ネクタリンというと不二家のドロッとした飲料、ネクターと言葉が似ている。
桃の味だから桃の学名や英語名にnecterのような文字が入っていて、ネクターもネクタリンもそこから採ったものだと思っていた。
ところが桃の学名はPrunus persicaである。
またネクタリンは、産毛がないモモの変種だから学名はモモと同じで、変種を示すvar. nectarinaが後ろにつく。
つまり、ネクタリンはその語感から(桃類の)栽培品種名(登録名)かと思っていたが、学名になるほどの普通名詞だった。すなわちネクタリンは、後述するように様々な栽培品種の総称である。
ちなみにネクターも登録商品名ではない。
もとは森永製菓の商標であったが、同社が業界発展のために商標管理を一般社団法人日本果汁協会に一任した。現在はどこのメーカーも使える普通名詞のようになった。桃とは関係なく、果肉(細かくすり潰したピューレ状の物)を一定量以上含む飲み物をネクターというらしい。オレンジ、ナシなどで50%以上、イチゴ、カキ、アンズで40%以上、モモ、リンゴで30%以上、バナナ、ウメで20%以上果肉が入っていれば、ネクターという。
さらに言えば、ネクターはギリシャ神話におけるネクタール(神々が常食とする生命の酒・不老不死の霊薬である飲み物)が語源で、ネクタリン飲料というわけではない。
話がそれたが、ネクタリンの苗を探さねばならない。
しかし都会のホームセンターには樹木苗がなかなかない。
さいたま新都心のビバホーム、さいたま市上落合の島忠などは売っていないと分かっている。あちこち行っても扱っていない確率が高いので、ありそうなホームセンターに電話して聞いた。与野本町のドイト花の木、足立小台の島忠にもなく、行ったことがない足立区北綾瀬の島忠ホームズにも電話した。
結局、何処にもないと分かったのでネットで買うことにした。
ついでにスモモの苗も買うことにした。
スモモはもちろん酸っぱい桃が語源である。
プラム、プルーンという言い方がある。
中国原産のすももはプラム(Plum、日本すもも、単に「すもも」とも)と呼ぶ。
学名Prunus salicina。
形は丸く、赤く熟れる。生食用。日本産は山梨が32%、長野が16%(2022)。ハタンキョウ(巴旦杏)とも呼ばれる。(漢字があるとは知らなかった。長野ではバタンキョといい、方言だと思っていた)
コーカサス地方原産のすももはプルーン(prune、西洋スモモ)と呼ぶ。学名Prunus domestica。
ミキプルーンで知られるように、紫がかった少し長めのかたちで、生食だけでなくドライフルーツやジャムなど加工もされる。雨で裂果が起きやすく、生産量は長野が54%、北海道が36%(2021)。
ちなみにネクタリンの国内生産は長野が7割を占める。
以上、ネクタリン(=桃)、プラム、プルーンはすべてバラ科スモモ属Prunusである。
さて、ネット通販で買おうとすると、様々な栽培品種があり、それぞれ特徴がある。
それぞれの品種を検索すると個人のブログなどが多くヒットする。しかし有名な品種しかなく、プルーンの品種がプラム類に入っていたりして間違いが多い。ネットの特徴か、同じ間違い、同じ記述が多く、自分で大して調べず、ネット情報を鵜呑みにしたものが多い。
そこで自分で表を作ることにした。
重要なのは、1本だけで実がつくかどうか(自家結実性)、実が生る季節はいつか(ブドウなどに重ならないほうが良い)、実の重さ(大きい品種は難しい)などだ。
JA長野、長野県果樹試験場、農研機構、苗木販売業者の公式サイトなどをいくつか見て作成した。
https://www.naro.go.jp/laboratory/nifts/kih/index.html
https://www.agries-nagano.jp/original_breed#kaju
https://www.ja-nagano.iijan.or.jp/farming/products/calendar/prune_plum/
など
1.ネクタリン
自家結実か 収穫 g 苗の価格
ファンタジア 〇 8月 250 1,155 日持ち良い
秀峰 x、〇? 250
フレーバートップ 9月 240
弁天の舞 〇,△ 9月 150₋180
サマークリスタル 7月 150₋200 須坂で開発
スイートクリスタル 7月下 160₋190 須坂で開発
ヒラツカレッド 〇 7月 200 1,650 旧名・モモ平塚68号
常陸レッド 〇 180 x
しずくレッド 〇 6月(90日)140 x 早生
チヨダレッド 〇 開花から90日 170 x
大石早生 x 6中旬~ 50₋80 1952年福島県大石俊雄氏
ソルダム x 7下旬~ 80₋150
太陽
サンタローザ 〇 7月 100₋150 別名「さんたろう」
貴陽 x 大型 難しい
ビューティ 〇 6中旬~8月 70 1,155
シナノパール 9月 200 高級
3.プルーン
アーリーリバー 〇△ 7下₋ 8上 25₋30 1,800
サンタス △ 7下₋ 8上 40₋50 2,300
トレジディ
グランドプライズ、
くらしま早生、 x
スコウ 1,800 須坂
オータムキュート x 9月下旬 80 2,000 須坂で開発
サンプルーン 〇 9月 30 1,800 佐久で選抜。国内首位、
スタンレー 〇 45 米から導入、国内生産量2位
パープルアイ 120 2,300 北海道
プレジデント 10月 90
シュガー 〇 9月
一覧表を作っているうちに、ヒラツカレッド(ネクタリン)、ビューティ(プラム)を買うことに決めたので、調査、表作製を途中でやめた。
注文先はガーデン ストーリー。
取り扱い品種が多く、送料が2本同梱、1400円、とはっきりしている業者にした。
苗は1650円と1155円。苗本体だけならホームセンターより安い。
住所を見たら
高松市国分寺町国分601-1
偶然にも、今年の6月に香川県に行ったとき、讃岐国分寺から関の池の脇を通って国府跡まで歩いた田舎道から、わずか500メートルのところだった。
知っていたら立ち寄りたかった。
20240618 香川4 讃岐平野のビュートと関ノ池、開法寺池
12月12日、苗が到着。
2つとも1年生接木苗。
驚いたことに、苗はポットに入っていなかった。畑から掘って洗ったのだろうか、根は土が全くついていない裸の状態で、少量の濡れたおがくずと一緒に新聞紙に包まれてていた。
説明を読むと6~12時間水に漬けてから、すぐ植えろという。
その日の夜に水にいれ、朝は寒くなるので玄関の中で放置した。
水をたっぷり上げなくてはいけないが、凍る季節になっている(気温が氷点下でなくても凍る)。少し心配。
ビューティは樹高2~5m、葉張り2 ~5m、ヒラツカレッドは樹高2~3m、葉張り2~4mである。
しかし、ビューティは奥の甘夏の枝先から80センチ離れたところに植えた。ビューティとヒラツカレッドのあいだは100センチ、ヒラツカレッドとせとかのあいだは150センチ。
つまり、半径50~80センチしか枝を張れない。触れ合うところは日が当たらない。
こうなるなら、枝豆やエンドウのように、最初から二本立てにしても良かったかもしれない。つまり、木の中央は日が当たらないから葉が付かず空洞になる。これをネクタリンとプラムの二本で共有し、二本が作る楕円の円筒の半分ずつに枝を張らせる。
しかし、実験の成否は5年後くらいにならないと分からず、こんな前代未聞の植え方は独創的すぎて危険である。
状況によっては、来年秋ごろ、場所を移転するかもしれない。
2024₋12₋13
手前(左):ヒラツカレッド 奥:ビューティ
先を少し切り戻しして、切り口で生きていることを確認した。
来年、場所を移動するかどうか、
5年後に実が生っているかどうか、
その時自分はどうなっているか、
甘い実が生ったら誰が喜んでくれるか、
果樹の苗を植えるということは、野菜と違い、未来に思いをはせるということ。
老人の場合は人生を思わざるを得ない。
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