「65歳からの職探し」シリーズが中断休止したままである。
人手不足とは言うが、この年だとなかなか良いアルバイトはない。
飲食店は能力的に無理だと分かったし、事務職はフルタイムの求人が多いし、
楽な作業で週2,3日という仕事はなかなかない。
そんななか、クルーズ船「飛鳥II」でのダンス教師(補助)という仕事があった。
1年半前の2023年7月、競技選手の先輩のIさんに紹介され、元締めのT先生のところで面接、合格した。
しかし10月21日~26日のクルージングは、水戸での講演が重なり行けなかった。
また飛鳥IIが(ディーゼルエンジンで発電し、電力でも進むハイブリッド船であり)12月から変圧器をすべて交換するため3か月間ドック入りした。そのため私の出番は、2024年が明けてからの世界1周クルージングからとなった。
豪華客船で3か月半、お一人様850万円の部屋にとまり、一般客と同じ食事、船内エンターテインメントなどを楽しみ、世界各地で上陸できるという内容だが、103日間も日本に帰ってこれないという長さに躊躇した。
ときに長野の母が何時亡くなるか分からず、弟夫婦に介護、面倒を見てもらっている立場で、とても仕事とは思えない能天気なクルージングに出かけるわけにいかない。
そんなことで断り、この仕事は忘れていた。
それが母が亡くなり、2024年も春になって夏になって、丸1年経った8月、連絡を頂いた。
長いのは困るが、今度は2025年1月の国内の短期間のツアーのどれかに乗ってほしいというので引き受けた。
飛鳥IIスケジュール 2024年末~2025年1月
ツアーは2泊3日からあるが、飛鳥自体の年間日程はタイトである。
各クルーズは横浜に朝9:00入港、その日の夕方17:00出航と忙しい。
飛鳥が港に一泊できるのは、1月だと5日と18日の夜の2日だけ。働きづめの船だ。
ところで、私はもちろんクルーズ旅などしたことない。
縁がない。
そもそもクルーズという単語だって違う意味で覚えていた。
戦艦がbattleshipに対し、巡洋艦がcruiser。
殴り合いのけんかのような大砲撃ち合いの海戦で生き残ることを目指した戦艦に対し、植民地と本国を往復する商船を護衛するのが目的だった巡洋艦は、大砲の大きさ、装甲の厚さを犠牲にしても、航続距離、速力を優先した。
だからクルーズという言葉は、外洋を遠くまで快適に巡行するという意味かと思っていた。またダンスのサンバでのっしのっしと大股で進むステップがクルーザード・ウォークというのも、この意味にあっている。
(もっとも、巡洋艦のcruiseは、ジグザグ航行するところからラテン語のcrux(十字架)から来たらしい)
もちろん今は「クルーズ」とは海賊や海軍が獲物を求めてジグザグ航行するとか、大洋を横断する(クロスする)という意味ではなく、「特に航海日程を決めないレジャー目的の船旅」という意味で使われている。これには「豪華」という意味も乗っかっているだろう。
遠距離移動が飛行機になってしまった現代、船旅は目的地への移動ではなく、船上での滞在を楽しむものになった。
自分には縁がなくても、世の中はどのくらいの人が楽しんでいるかというと、国土交通省の調査、資料がある。
海外あるいは国内でクルーズを楽しむ日本人(国土交通省、2024)
日本人のクルーズ人口(船内1泊以上のクルーズを利用した日本人乗客数)は、20万人前後であったが、2017年に30万人を超え、コロナ前の2019年は35万人であった。これは海外で1泊以上する外航クルーズが23.8万人、国内クルーズが11.8万人の合計である。
国内クルーズは1989年以来、10万人前後であまり変わっていないが(グラフ赤色)、海外までいく外航クルーズは増えている。その中で日本の運営会社の船(グラフ黄緑)は4万人程度だったのが8千人に減少し、海外の船によるツアーが2万人から23万人に急増している(グラフ青色)。
(いっぽう訪日クルーズ外国人は中国からの博多長崎訪問を中心として215万人を数えた。)
2023年の外航クルーズは、日本の会社がわずかに3,200人、この行き先は香港、プサン、台北あたりだろう。これらのアジアの港まで連れて行くのもほとんど(12万人)海外のクルーズ船である。また、世界一周は年間3,800人ほど(2023年)。全て海外クルーズ会社の船のようだが、2024年から飛鳥IIも参入する。
さて、香港、プサンまで足を延ばす外航クルーズが23.8万人、国内だけのクルーズが11.8万人(2019年)というのがどういう数なのか、今一つぴんと来ない。
むしろ具体的なクルーズ船の規模を見たほうが良いかもしれない。
我が国の船会社が運航する外航クルーズ船(国土交通省、2013年現在)
上の表でのふじ丸は、商船三井が所有し、同社の子会社、日本チャータークルーズ(株)が運営していた。わが国のクルーズ客船の嚆矢として三菱重工業神戸造船所で建造、1989年4月に就航した。当時、日本籍で最大の客船であったが、2013年に引退した。
日本クルーズ客船(株)のぱしふぃっくびーなすは、1998年に就航、日本籍では2番目に大きな船で世界一周クルーズも実施していたが、コロナで運休が続いたあと、2023年1月、引退した。
また、クリスタル・クルーズ社は、日本郵船全額出資の米国子会社でロサンゼルスに本拠を置き、クリスタルシンフォニー、クリスタルセレニティを海外で運行している。
すなわち、2013年から日本の会社が運営するクルーズ船で現存するのは、日本郵船の飛鳥IIと商船三井のにっぽん丸の2隻である。総トン数は5万トンと2万2千トン。
クルーザー(巡洋艦)と大きさと比較してみる。
商船や客船の総トン数は船の体積をもとにした値であり、軍艦のトン数と少しちがうが、基準排水量(燃料と水を引いた重さ)だと、旧海軍の高雄型重巡洋艦が9,850トン(改装後1万2千トンくらい)、巡洋戦艦の金剛型が26,330トン、航空母艦の飛竜が17,300トン(満載時21,887トン)、瑞鶴が25,675トン(満載時32,105トン)。ニミッツ型原子力空母は基準排水量74,086トンである。
また、飛鳥II、にっぽん丸の速力は、21ノット、18ノットだが、巡洋艦が高雄で34.2ノット、巡洋戦艦金剛で30.4ノット、昔の航空母艦はカタパルト発射でなかったから艦載機を出すときは風上に向かって全速で走った。速力は飛竜、瑞鶴とも34ノットだった。
いまのクルーズ船は昔のクルーザーとちがい、船体ははるかに大きいが、速力は著しく遅いということがいえる。
国土交通省の資料は日本籍のクルーズ船しか扱っていないので、消費者の目線の最新のクルーズ船を見てみた。
豪華客船・クルーズ専門旅行会社「クルーズプラネット」(HISグループ)のホームページを見ると、日本籍、外国籍の各クルーズ船と商品が乗っている。
国内のクルーズ船は2024年現在5隻。
1.飛鳥II 2006年就航 50,444トン 乗客872人
2.にっぽん丸 1990年 22,472トン 532人
3.ガンツウ 2017年。3,200トン、38人。
4.MITSUI OCEAN FUJI 2024年 32,477トン 458人
5.パシフィック・ワールド 2021年 77,441トン 1,950人(最大 2,250名)
パシフィックワールド号(世界一周)を除くと4隻併せて乗客定員は2000人行かない。
それでも飛鳥で見ると、2泊3日の横浜出入港のジャズフェスティバルから、103日間の世界一周旅行まで、年間全部で33回のクルーズがある。乗客定員が872人だから毎回満室なら28,776人。4社合わせると国内業者、国内ツアーは10万人に行くのかもしれない。
ちなみに、
1.飛鳥IIは、1990年6月、日本郵船の子会社クリスタル・クルーズの「クリスタル・ハーモニー」(バハマ船籍)として三菱重工長崎で竣工した。その後2006年1月、グループ会社の郵船クルーズが本船を買い取り日本市場向けに改装、飛鳥IIとした。同時に飛鳥(1991年竣工、28,856トン、604名)はドイツの会社に売却された。
2.にっぽん丸は、商船三井クルーズの船で、内閣府の青年国際交流事業「世界青年の船」と「東南アジア青年の船」でも使用されている。初代は1958年竣工、現在の3代目は1990年に三菱重工神戸で竣工。
3.ガンツウは、常石ホールディングス傘下のせとうちクルーズが運航するクルーズ客船。尾道を発着港として、瀬戸内海を周遊。瀬戸内の集落に見られる切妻屋根を模して設計された船体は、船名(イシガニの備後地方における方言)とともに、クルーズ客船のイメージから大きく違っている。
4.MITSUI OCEAN FUJIも商船三井クルーズの船である。
2009年6月、イタリアのシーボーン・オデッセイ号としてT.マリオッティ造船所で竣工。
2023年、商船三井がクルーズ事業を拡大するため購入、新ブランド「MITSUI OCEAN CRUISES」と合わせて新船名は「MITSUI OCEAN FUJI」とした。
この船名は、富士山だけでなく、日本の近代的なクルーズ客船の先駆けとなった「ふじ丸」(1989年三菱重工神戸で竣工、23340トン、商船三井と日本クルーズ客船が共同運航、2013年引退)を意識したものという。
5.パシフィック・ワールドは、ピースボート(世界一周クルーズ)を企画実施しているジャパングレイス社(本社東京)が2021年春からチャーターしているもの。世界一周を年3回おこなっている。この船はもともとプリンセス・クルーズ社(本社米国)が運行していたサン・プリンセス号(1995年竣工)である。2013年から日本に投入され、2014年はダイヤモンド・プリンセス号と合わせて2隻体制で日本発着クルーズを40回以上展開したが、のち撤退した。
この5隻の他に、日本では以下の外国籍のクルーズ船も、9隻就航している。
ちなみに、クルーズ船は、サービス(価格)により、便宜上以下の3つのクラスに分けられる。
1.カジュアル US$100~350/泊
2.プレミアム US$150~400/泊
3.ラグジュアリー US$400~1,000/泊。
いずれも二人部屋を二人で使用したときの一人当たり料金。
3食、娯楽付きであるから豪華ホテルより安いといえる。
1.ダイヤモンド・プリンセス
2.コスタ・セレーナ
3.ノルウェージャン・スピリット
4.MSCベリッシマ
5.セレブリティ・ミレニアム
6.バイキング・エデン
7.クイーン・エリザベス
8.ウェステルダム
9.ノールダム
このうち一番有名なのはダイヤモンド・プリンセスだろう。
115,875トン、乗客定員2706人。2020年2月、まだコロナが得体のしれないころ、乗客に患者が発生、横浜への入港を拒否され、連日テレビに出た。
イギリスP&Oクルーズ社が所有しアメリカのプリンセス・クルーズ社によって運航されている。この船はたまたま日本に来航していたわけではなく、1年を通して日本近海で(冬季のみはオーストラリアで)営業している。
他の外国籍船も日本の港から出て日本の港に帰ってくる。
例えばバイキング・エデン(48,000トン、930名)は那覇発着で厦門までいく7日間のツアーは一人29万から84万円である。
MSCベリッシマは171,598 トン、旅客定員4,418名(最大 5,686名)、イタリアの巨船。今まで日本に来たクルーズ船で最大だが、公式サイトを見ると2025年は国内各地発着のクルーズがいっぱいある。
一般に海外のクルーズ船は巨大でその分コストを抑え、大衆的になっている。
大きさを比較した図があった。
国土交通省港湾局の資料から(2024)
https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001744972.pdf
どれを見てもずんぐりしていて軍艦とは違って、攻撃されたら簡単に沈没しそうだ。
世界最大のアイコン・オブ・ザ・シーズは20階建て、25万トンもあり、ロイヤル・カリビアン・インターナショナルが運航する。乗客乗員を合わせると最大で1万人、「海の上の超巨大テーマパーク」といわれる。
ところで、飛鳥II、にっぽん丸とも、実は今回乗る前から知っていた。
というのは、日本郵船と商船三井の株を持っていて、株主優待としてクルーズの割引券が届くからだ。(もちろん行く気も興味もないから捨てていた)
この機会に商船会社(海運会社ともいう)のこともまとめておく。
業界としては海運業界という。
国内の5大会社は
創業 売上高 営業利益 (百万円)連結従業員数
1位 日本郵船 1885 2,387,240 174,679 35,165
2位 商船三井 1884 1,627,912 103,132 9,795
3位 川崎汽船 1919 962,300 84,763 5,629
4位 NSユナイテッド海運 1950 233,100 21,601 618
5位 飯野海運 1899 137,950 19,063 680
業界トップの日本郵船は岩崎弥太郎がはじめた汽船廻漕業・九十九商会を源流とし、これがのちに三菱財閥に発展するから、いまも三菱グループの中核企業である。
明治初期、わが国の海運を二分した郵便汽船三菱会社と三井系国策会社の共同運輸会社がともに赤字となったため、1885年(明治18年)、政府の仲介で合併、日本郵船会社が設立された。
現在、国内・海外の350以上の港へ684隻が乗り入れており、連結売上高で世界2位である。
クルーズ船は飛鳥IIを保有し、2025年中に飛鳥IIIを投入する。
商船三井は、1964年、三井物産の商船部門から1942年に独立した三井船舶が、1884年(明治17年)創立の大阪商船と合併したもの。
過去にふじ丸を保有、現在にっぽん丸とOCEAN MITSUI FUJIを保有。
業界3位の川崎汽船は1919年、川崎造船所(現・川崎重工業)の船舶部が独立したもの。第二代社長は、先日、西洋美術館のブログで書いた松方幸次郎である。クルーズ事業は、過去にソング・オブ・フラワー号を持っていたが撤退した。
海運業は戦争、為替などの国際情勢で景気が左右されやすいため、大手三社は多角化の一環としてクルーズ事業に力を入れたが、バブル崩壊、コロナ禍に加え、近年は外国資本のクルーズ船の参入によって、国内企業としては簡単ではないようだ。
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