製薬会社を辞めたのが2013年3月、千駄木に引っ越したのと同時だった。
あれから13年、大学教員を9年勤め、定年退職後は競技ダンスをやりながらベーカリー、居酒屋、スーパー、家庭菜園などのアルバイトを経験し、過去の専門からどんどん離れた。
昨年、医療専門の広告代理店(の下請け会社)に行き始めたことから、ちょっと昔に戻った。
そして先日、全世界の医薬品売上高のランキングを作る必要があった。
薬科大学ではほとんど薬剤師国家試験を意識した薬理の講義で、サイエンス(各企業がしのぎを削っていた先端創薬分野)や医薬品経済などから遠ざかっていた。しかし、移ったばかりの頃はM薬科大学で年に一度、製薬企業の歴史について講義していたから、医薬品のランキングについては毎年ウォッチしていた。
そのランキングは毎年2月ころまでに各製薬会社が前年1月から12月までの数字を公開するから、それを業界誌の記者などが集計し、自社媒体に載せる。私は「国際医薬品情報」という月2回発行の雑誌からとって発表資料に入れていたが、毎年5月か6月まで待っていた。
それが、今回、3月にChatGPTに聞いたら、簡単に教えてくれたのですぐ資料を作れた。
まず驚いたのが、
1.5月まで待たずに簡単に数字が得られたこと
2.ランキング構成の医薬品が大きく変わったこと
3.売上額が大幅に増えたこと
だ。
1についてはAIの進歩は素晴らしい。もちろん平気でうそをつくが、それはAIでなくても同じである。
たとえば今回、最初はAIでなくネット検索した。
やはり、最新の2025年の数字はなく、2024年12月の数字しかなかった。
問題はオゼンピックが458億ドルということだ。かつてリピトールが100億ドルを超えて話題になったのは20年以上前か、あれからインフレとはいえ、こんなに多いものか?
最も閲覧者が多いAnswersNews、日経新聞ともこの数字を出していた。458億ドルというのはメガファーマの全売上高に匹敵する。
実際、オゼンピックは170億ドルで、同一成分semaglutideのウゴービ、リベルサスを入れれば250~300億ドル近く(2024年)になるかもしれないが、同一のグラフの下のほうにウゴービが154億ドルで出ているのだから、2つで600億ドルになってしまい話にならない。
こういうウソの数字でも専門誌(紙)が2つとも載せていたら関係者はみな信じてしまう。
ちなみに、オゼンピックが急伸したノボ社の2024年の全売上高は421億ドルである。こういうことに気が付かない記者が増えているということか。ITでどんどん仕事のスピードが速くなって雑になったということか。
2.ランキング構成の医薬品が大きく変わった。
私自身のブランクがあるとはいえ、こんなに変わるものか。
人間も病気も変わらない、サイエンスも給料も変わらないのに。
AIを手にしたから、各年度のベスト10を出させてみた。
年 順位 商品名 一般名 主領域 メーカー 売上(概算・億ドル)
1995 1 Zantac ranitidine PPI/H2ブロッカー GSK 30
1995 2 Vasotec enalapril 高血圧 Merck 25
1995 3 Procardia nifedipine 高血圧 Pfizer 20
1995 4 Capoten captopril 高血圧 BMS 20
1995 5 Augmentin amoxicillin/clavulanate 抗菌薬 GSK 20
1995 6 Prilosec omeprazole PPI AstraZeneca 20
1995 7 Prozac fluoxetine 抗うつ Eli Lilly 20
1995 8 Zocor simvastatin 脂質異常症 Merck 15
1995 9 Claritin loratadine 抗ヒスタミン Schering-Plough 15
1995 10 Tagamet cimetidine H2ブロッカー GSK 15
2000 1 Lipitor atorvastatin 脂質異常症 Pfizer 70
2000 2 Prilosec omeprazole PPI AstraZeneca 60
2000 3 Zocor simvastatin 脂質異常症 Merck 50
2000 4 Norvasc amlodipine 高血圧 Pfizer 40
2000 5 Prevacid lansoprazole PPI Takeda 40
2000 6 Procrit epoetin alfa 貧血 Amgen 40
2000 7 Seroxat paroxetine 抗うつ GSK 35
2000 8 Glucophage metformin 糖尿病 BMS 30
2000 9 Claritin loratadine 抗ヒスタミン Schering-Plough 30
2000 10 Celebrex celecoxib NSAIDs Pfizer 30
2005 1 Lipitor atorvastatin 脂質異常症 Pfizer 130
2005 2 Plavix clopidogrel 抗血小板 BMS/Sanofi 60
2005 3 Nexium esomeprazole PPI AstraZeneca 60
2005 4 Zyprexa olanzapine 抗精神病 Eli Lilly 50
2005 5 Epogen epoetin alfa 貧血 Amgen 50
2005 6 Seretide fluticasone/salmeterol 喘息 GSK 45
2005 7 Aranesp darbepoetin alfa 貧血 Amgen 40
2005 8 Remicade infliximab 自己免疫 J&J 40
2005 9 Enbrel etanercept 自己免疫 Amgen/Pfizer 35
2005 10 Prevacid lansoprazole PPI Takeda 35
2010 1 Lipitor atorvastatin 脂質異常症 Pfizer 110
2010 2 Plavix clopidogrel 抗血小板 BMS/Sanofi 90
2010 3 Seretide fluticasone/salmeterol 喘息 GSK 80
2010 4 Enbrel etanercept 自己免疫 Amgen 70
2010 5 Remicade infliximab 自己免疫 J&J 70
2010 6 Humira adalimumab 自己免疫 AbbVie 65
2010 7 Rituxan rituximab がん Roche 65
2010 8 Avastin bevacizumab がん Roche 60
2010 9 Nexium esomeprazole PPI AstraZeneca 55
2010 10 Herceptin trastuzumab がん Roche 55
2015 1 Humira adalimumab 自己免疫 AbbVie 140
2015 2 Enbrel etanercept 自己免疫 Amgen 90
2015 3 Remicade infliximab 自己免疫 J&J 85
2015 4 Rituxan rituximab がん Roche 80
2015 5 Avastin bevacizumab がん Roche 70
2015 6 Herceptin trastuzumab がん Roche 65
2015 7 Lantus insulin glargine 糖尿病 Sanofi 70
2015 8 Januvia sitagliptin 糖尿病 MSD 60
2015 9 Neulasta pegfilgrastim 支持療法 Amgen 60
2015 10 Crestor rosuvastatin 脂質異常症 AstraZeneca 60
2020 1 Humira adalimumab 自己免疫 AbbVie 200
2020 2 Keytruda pembrolizumab がん免疫 MSD 140
2020 3 Revlimid lenalidomide 血液がん BMS 120
2020 4 Eliquis apixaban 抗凝固 BMS/Pfizer 90
2020 5 Opdivo nivolumab がん免疫 BMS/Ono 70
2020 6 Imbruvica ibrutinib 血液がん AbbVie/J&J 80
2020 7 Stelara ustekinumab 自己免疫 J&J 80
2020 8 Eylea aflibercept 眼科 Regeneron 80
2020 9 Enbrel etanercept 自己免疫 Amgen 70
2020 10 Biktarvy HIV Gilead 70
2023 1 Keytruda pembrolizumab がん免疫 MSD 250
2023 2 Humira adalimumab 自己免疫 AbbVie 210
2023 3 Eliquis apixaban 抗凝固 BMS/Pfizer 180
2023 4 Dupixent dupilumab 自己免疫 Sanofi/Regeneron 130
2023 5 Opdivo nivolumab がん免疫 BMS/Ono 100
2023 6 Stelara ustekinumab 自己免疫 J&J 100
2023 7 Trulicity dulaglutide 糖尿病 Lilly 70
2023 8 Ozempic semaglutide 糖尿病 Novo Nordisk 140
2023 9 Biktarvy HIV Gilead 120
2023 10 Xarelto rivaroxaban 抗凝固 Bayer/J&J 110
2024 1 Ozempic semaglutide 糖尿病 Novo Nordisk 170
2024 2 Keytruda pembrolizumab がん免疫 MSD 260
2024 3 Eliquis apixaban 抗凝固 BMS/Pfizer 190
2024 4 Mounjaro tirzepatide 糖尿病/肥満 Lilly 150+
2024 5 Dupixent dupilumab 自己免疫 Sanofi/Regeneron 140
2024 6 Humira adalimumab 自己免疫 AbbVie 140
2024 7 Opdivo nivolumab がん免疫 BMS/Ono 110
2024 8 Biktarvy HIV Gilead 130
2024 9 Stelara ustekinumab 自己免疫 J&J 100
2024 10 Darzalex daratumumab 血液がん J&J 90
トレンドをまとめれば、
2005まで:小分子(スタチン、PPIなど巨大市場=患者数が多い生活習慣病の薬。
2010:バイオ医薬(抗体)が主役に移行。がん+自己免疫が伸長。希少疾患、高薬価モデル成立
2015:自己免疫疾患薬が独占(Humira時代)
2020:がん免疫療法登場(キートルーダ、オプジーボ)
2023:がん免疫トップ
2024:GLP-1がトップ(生活習慣病が復権)
もう一つ分かることは(驚いたことは)
3.売上額が大幅に増えたことだ。
トップ医薬品売上高が30億ドル(ザンタック)から317億ドル(キートルーダ)になったことである。30年で10倍というのは、医療保険制度を考えなおさないと行けないレベルである。
以下略
ご存じの通り、一つ大型新薬が出ると全社売り上げの半分近くを占めるほどになり、その特許が切れれば会社の売り上げは激減する。すなわち会社ランキングの変化も激しい。
AIに各年度のベスト10社を出してもらった。
1995 1 Merck 150 小分子中心(循環器)
1995 2 Glaxo Wellcome 140 呼吸器・感染症
1995 3 Pfizer 120 まだ中堅
1995 4 BMS 110 循環器・ACE阻害薬
1995 5 Eli Lilly 100 精神・糖尿病
1995 6 Astra 90 がんはまだ限定的
1995 7 Roche 85 PPI
1995 8 Novartis(前身) 80 多領域
1995 9 Sanofi(前身) 75 抗ヒスタミン
1995 10 J&J 70 PPI・消化器
2000 1 Pfizer 290 Lipitorで急成長
2000 2 GSK 260 合併後最大手
2000 3 Merck 220 依然強い
2000 4 AstraZeneca 160 PPI
2000 5 J&J 150 循環器
2000 6 Novartis 150 多領域
2000 7 BMS 140 がん伸長
2000 8 Roche 130
2000 9 Eli Lilly 120
2000 10 Sanofi 110
2005 1 Pfizer 450
2005 2 J&J 390
2005 3 GSK 370
2005 4 Novartis 320
2005 5 Sanofi 300
2005 6 Roche 280
2005 7 Merck 260
2005 8 AstraZeneca 250
2005 9 BMS 220
2005 10 Eli Lilly 200
2010 1 Pfizer 670
2010 2 Novartis 500
2010 3 Roche 470
2010 4 Merck 460
2010 5 Sanofi 430
2010 6 J&J 420
2010 7 GSK 400
2010 8 AstraZeneca 330
2010 9 Abbott 300
2010 10 Eli Lilly 230
グラフをChatGPTに作ってもらった。
医薬史エッセイ 目次へ
拙訳書「新薬誕生:百万分の1に挑む科学者たち」にも書いたが、1998年、99年は欧米製薬会社の合併が盛んに起きた。2000年の立ち上がりはその影響である。
目立つのは青のファイザー。合併を繰り返し、2009年Wyethを680億ドルで買収、2010年の売上にフル寄与した。2021年はコロナワクチンの特需である。
2015年のAbbvie(茶色)はもちろんHumira ・adalimumabである。(前身のAbbottはグラフにない)
2020年に初登場のNovoNordisk(ピンク)は、オゼンピック、ウゴービのセマグルチドである。糖尿病と同一成分で肥満という巨大な市場にかみついた。
30年前、Novoなど日本企業とそれほど差はなかった。どうしてこれほど差がついたか?
心配するのは日本の製薬会社にかつての存在感がないことだ。
世界でも弱いし、国内でも薄い。我々が就職するころは多くの大学から多数の学生が就職した。研究所は合成陣が新規化合物を合成し、生物部門で薬理活性などを調べた。
しかし、国内でも合併が起こると、リストラのため採用が減り、有名大学の大学院生しか採用されなくなった。
さらに年が進むと自社で新薬を1から作るのでなく、海外のベンチャーから種を買うとか、導入して共同開発販売することになり、武田、田辺三菱などは研究所が実質消滅した。
この結果、大学の生命科学分野の学生たちの就職先が激減した。企業と大学の結びつきが弱くなり、資金提供もなくなり、日本のライフサイエンスの活力が落ちた。
今回、いろんなことを調べているうちに、欧米メガファーマが中国の新興製薬会社から多くのシーズを導入していることも知った。
以上、AI(chappy、gemini)のすごさ、製薬業界の変化の大きさを書いた。




































