6月以降、無料の西洋美術館と科学博物館にしばしば立ち寄っている。
7月10日にも何回目かの科学博物館に入り、恐竜や人類の化石について前のブログに書いた。
そのとき、ほかにもいろいろ写真を撮っておいたので書いておく。
地球館の地下2階で生物の進化、ヒトの進化についてみたあと、地下3階に降りた。
ここは「自然の仕組みを探る」と、ようやく生物標本を離れた。
このフロアは日本の科学者、自然法則、宇宙、物質を展示する。
地球館マップ
地下3階の展示室に入ると Alfred Nobelの遺言、日本のノーベル賞学者の写真と説明が所せましとパネルになっていた。
2026-07-10 12:24
福井謙一(1981年)、白川英樹(2000年)と受賞順に並んでいる。
12:25
化学賞は
北川進(2025年):金属有機構造体(MOF)の開発
吉野彰(2019年):リチウムイオン電池の開発
根岸英一・鈴木章(2010年):パラジウム触媒クロスカップリング
下村脩(2008年):緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見
田中耕一(2002年):生体高分子の構造解析手法の開発
野依良治(2001年):不斉触媒による水素化反応の研究
の全部で9人
12:26
この長い年表のようなパネルは化学賞9人、
物理学賞12人(米国籍の南部、中村、真鍋氏を含む)
医学生理学賞6人
というノーベル賞受賞者だけでなく、日本が誇る科学者の生きた時代を示している。12:27
長井長義、高峰譲吉、鈴木梅太郎
長井は日本で最初の理学博士5人のうちの一人で、東大がお雇い外国人教師から日本人教授に切り替えるとき薬学と理学で奪い合ったが、薬学の教授となって後進を育てた。高峰(アドレナリンの発見)、鈴木(ビタミンの発見)はその業績からしてノーベル賞をもらっておかしくない。
近年日本は、産業が空洞化し新興国に押され、ただ通貨が安いというだけの国になってしまった。安い国というのは本来貧しい国である。尊敬されるにはやはり科学(ノーベル賞)しかないだろう。
一人ひとり見ていては時間がかかるので、奥は何があるのだろうと歩を進めていく。
このフロアはこれまでの生物標本とちがって自然法則、宇宙、物質を展示する。
法則を発見するには現象を定量的に記録しなければならず、そのためには単位が必要である。
国際単位系(SI, International System of Units)における7つの基本単位は、時間、長さ、重さ、電流、温度、物質量、光度を表すもので、それぞれ秒s、メートルm、キログラム㎏、アンペアA、ケルビンK、モルmol、カンデラcdである。
12:31
それらの単位を実感するための展示があった。
sは指を置くと脈拍の間隔を秒で表してくれる。
私はもともと速いのだが、この時は荷物を持って歩きまわっていたせいか0.55秒だった。1分あたり109である。今書いている時はほぼ60だった。
そういえば、高校の物理でCGS系とMKS系を習ったな。力の単位は前者だとダイン(1 g⋅cm/s2 )、後者だとニュートン (1 kg⋅m/s2)と、この年になると昔が懐かしい。
前者はcm、後者はkgと、それぞれ基本単位メートル、グラムの100分の1、1000倍という単位を含むため美しさに劣ることでは同じである。CGSは卓上実験のとき便利だから科学者に好まれ、MKSは人間の大きさに近いので技術者に好まれた。しかし結局後者のほうが実生活の大きさに近いため、SIに組み込まれた。10のべき乗を含まないなら1メートル立方の水の重さ、トンを使うMTS系が考えられるが、重すぎてだめだ。
栄養学で実生活に言いやすいように、キロカロリーをカロリーと言っているより、ずっとまともな議論だが。
12:30
その重さを実感する展示装置は、「調整中」で使えなくなっていた。
いくつかある重りをのせて1kgの重りを当てるようだったが、乱暴に扱われて故障したのだろうか。
となりの「m」長さの装置は、レバーをレールの上で動かし、1メートルの長さを推定で作ってみるというものだった。しかしほとんどがアジア人観光客で日本語が読めず、みんなレバーを乱暴にガーガー滑らせているだけだった。これも故障するかもしれない。
アンペアのところはハンドルをぐるぐる回して1Aを発電してみようということだった。
12:33
元素周期律表
この辺りは人がいない。
12:34
平日だから個人の学生、生徒もおらず、ほとんど観光客。日本人そっくりでも聞こえるのはすべて外国語だった。
7つの基本単位のうち、物質量 (mol)、温度(K) 、光度(cd)も一か所に並んでいた。
12:36
モルのところは1モルの分量の物質が4種類展示されている。
モルというのは物質の量と書いたが、肉や野菜の「量」は重さでも体積でも表される。しかしモルで表す「量」とは粒子(原子、分子、イオン、電子など)の個数のことである。
普通の化学で扱う固まり、液体、粉を構成する微粒子の量は何億個、何兆個にもなるからアボガドロ定数6.02×10^23の何倍かという表現をする。
すなわち
モル数 = 粒子の個数/アボガドロ定数
である。
アボガドロ数の2倍の数の粒子の量は2モルである。
つまり1モルの物質に含まれる粒子の個数は、鉄であろうが水であろうが空気であろうが、粒子が何であっても一定(=アボガドロ数)である。
歴史的には微粒子の中で普通に化学で扱えるものは分子moleculeだったから、ここからmolという単位記号ができた。ケルビン(温度)やパスカル(圧力)のように人名を使ってAv(アボ)でも良かったけどね。
その後NaClや金属原子などにも適応され、分子だけでなくイオン他の微粒子の個数の単位に広がった。
長年、酸素分子 32 g に含まれる分子の数を 1 モル としてきたが、同位体が存在することもあり、1960年に炭素12Cに原子量 12 (整数!)の値を与えることにして、その12グラム分の原子数を1モルとした。つまり重量で決めた。
ところが、2019年、アボガドロ数のほうを正確に6.02214076×10^23 /molとすることで再定義し(重量でなくなった)、1モルの炭素12の質量は、12 gではなくなり、11.9999999958(36) gという実験値となったらしい。
それにしても、よく考えるとモルというのは変な単位である。
他の単位が連続量なのに対し、これは1つ2つと数えられる粒子数の単位なのである。また比であるから無次元である。1円2円と数えられるお金の、万、億、などという単位と同じである。
12:28
展示されているのは炭素C、 アルミニウムAl、銅Cu、タングステンWの1モル分の固体である。単体であるから(炭素の単体はダイヤを展示するわけにいかないから黒鉛だろう)、1モルの重さは原子量にグラムをつけたものに等しい。
それぞれ元素番号は、6,13、29、74で、陽子だけならこの値が質量になるが、中性子があり、また同位体があるため原子量は12.01, 26.98, 63.55, 183.84 であり、これが実際の質量(=地球上での重さ)になる。
シーソーの一端を指で押して重さの違いを感じるようになっている。
ここにあるタングステンと炭素とは原子の総個数は同じで(=1モル)、体積はそれほど変わらなくても重さが15倍ほど違う。
となりの温度ケルビンKの展示は掌の温度を測るだけだった。
その隣の明るさの単位、カンデラ、cdは筒の中で光を発している。
覗くと思ったよりまぶしかった。
1カンデラは、ほぼろうそくの明るさに等しいという。実際、歴史的には決まった量のろうそくや脂を燃やしてその明るさを単位とした。カンデラは candleと同じ語源である。
しかしろうそくでは各自、各国バラバラなので現在は「周波数540×10^12 Hz (波長555 nm)の緑の単色放射を放出し、所定の方向におけるその放射強度が「1/683ワット毎ステラジアン」である光源の、その方向における光度」と定義されるらしい。
ふつう光は見る人の方向だけでなく全方位に光が行く。全方位の立体角は4πステラジアンだから、光源の強さの単位、ルーメンは 1ルーメン=4πカンデラという関係がある。
また、照度(ルクス)は受け取る側の明るさである。光は同じ立体角でも離れれば離れるほど広がって薄まる。球の表面積は半径の二乗に比例するから、光度を距離の二乗で割ったものが照度の目安になる。実際、ルクスはカンデラを距離(m)の二乗で割ったものと定義される。これは1ルーメンの光源が1平米を照らした時の明るさと同義である。
ちなみに、カンデラ cd やモル mol は人名でなく普通名詞由来だからA、Kのような大文字でなく小文字で書く。
ここで外に出た。
12:44
この日は科博の前、木々の向こうに噴水が見えるところでお昼を食べた。
13:11
骨董市、がらくた市
日本人から見たらごみであっても、外国人は喜ぶだろう。
13:15
風鈴下の休憩所
単位というのは面白い。
モノを測るときに重要であるだけでなく、それを決めていった過程が科学の発展の歴史と直結している。
アボガドロ(1776-1856、イタリア・トリノ)が1811年に
『物質の基本粒子の相対的質量とこれらの化合比率を決定する一つの方法』という論文で、同じ温度、圧力、体積の全ての種類の気体には同じ数の分子が含まれるという法則(彼の死後アボガドロの法則と名付けられた)を発表したが、国外では無名であったこと、論文が難解であったことから学会の相手にされなかったという。
実際どういう実験をしたのか、ボケ防止のために高校のころ勉強したことを思い出してみる。
真空はだいぶ前に(1643)発見されているから、彼らの時代には気体は粒子の集まりということは知られていただろう。すると同じ気体で体積が2倍あれば気体の粒子数も2倍になると考えるのは自然の流れである。つまり体積が粒子数を表す。
ただ、種類の違う気体の体積を比較したときはどうか?
すなわちアボガドロの法則にどうつながるか?
ここで水素と酸素を反応させ水蒸気ができる実験をすればよい。
2H2+O2=2H2O
このとき反応前後の体積比を測れば
2:1:2となるだろう。
また、塩素と水素で塩酸ができるときは
Cl2+H2=2HCl
1:1:2であろう。
このように化学反応の時の体積比が1:1、あるいは簡単な整数比になる。
1対1で反応する気体の体積比が1:1であることから、同じ体積の中には気体の種類が変わっても同数の粒子が含まれていることがわかる。体積が半分なら粒子も半分である。
ここで解決したと思って念のためネットで調べたら少し事情が違っていた。
当時は大混乱したらしい。
二原子分子の存在が知られておらず、当時主流の原子説では
H+Cl=HCl (1:1:1)
H+O=HO (1:1:1)
にならなければいけなかった。
ちなみに気体反応における体積の整数比を発見(1808)したのはアボガドロでなく、フランスのゲイ・リュサックであり、原子説(1803)はイギリスのドルトン。両方とも画期的発見である。
アボガドロは、原子が結合した分子という粒子を初めて想定して(1811)、原子説と整数比の矛盾を解決しようとした。
分子は moleculeであり、アボガドロ数のアボガドロと mol はここでつながる。
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