2024₋11₋18
ニンジン収穫
初めて植えた秋冬ジャガイモに日が当たらないので抜いた。
人参の色はβカロテン(カロテノイド系、ビタミンA)である。
かつてはこの物質も緑黄色野菜とかで健康志向の人にもてはやされたが、最近はアントシアニンとかイソフラボンのほうが世間では有名かもしれない。流行というのはそういうものである。その風潮から人参の葉にもフラボノイドが含まれると言われるようになった(食べてもまずいけど)
フラボノイドとアントシアニンの関係について分かっていない人が多いので解説しておく。
アントシアニンはナスや黒豆などの色素として一般には知られているが、これとフラボノイド系色素、はてはポリフェノールはどういう関係か。
まず、ポリフェノールというのは文字通り、ただフェノール系水酸基が多数ある化合物を言う。だから世の中には無数にある。色の有無、化学構造の基本骨格、ましてや健康に良いとか悪いとかは関係なく、当然、発がん物質や毒物も含まれる。
そのポリフェノールの中にフラボノイドも含まれる。当然フラボノイド、イソフラボンも無数にあり、その中には発がん物質や毒物もあるだろう。
フラボノイドとは、ふつう
ABCの3環構造のフラバン骨格を持つ化合物の総称である。
AC環はクロマン(=ベンゾジヒドロピラン)で、その2位にフェニル基(B環)がついている。つまりフラバンは2-フェニルクロマンである。
このフラバン自体は天然にはほとんど存在しないが、この骨格の周りに水酸基(OH)を多くもつ化合物(すなわちポリフェノール)は植物体に多数存在する。
例えば緑茶に含まれるカテキンは、同時にポリフェノールであり、フラボノイドであり、フラバン誘導体でもある。(カテキンは上のB環の2つのOHがオルト位にある。神経伝達物質カテコールアミンのカテコールも、ベンゼン環に2つのOHがオルト位についたものだが、カテキンの乾留で得られたから名付けられた)
また、赤ワインの色素成分、つまりブドウの果皮に含まれるシアニジンは、アントシアニン(正確にはアントシアニジン類)の一つとして有名であるが、同時にポリフェノールであり、フラボノイドであり、フラバン誘導体でもある。カテキンと似ているが、C環が酸化されているからカテキンではない。
シアニジン
(アントシアニンはOHにグルコースがついた配糖体という形で植物体に存在し、糖のはずれた上記のようなアグリコンはアントシアニジンという。ブドウ果皮には、OHの数と場所が異なる別のアントシアニンも多く含まれる)
配糖体は腸管で吸収されず、加水分解されてから吸収、血中に入る。だから健康(?)効果を発揮するのはアントシアニンではなくアントシアニジンといえる。
フラボノイドをさらに分類すると、
左上から右下にZ字で(1)~(4)とすれば、フラバンの4位がケトンになったフラバノン(2)、それが脱水素されたフラボン(1)、フェニル基が2ではなく3に付いているイソフラボン(3)、C環の酸素原子の孤立電子対が二重結合に参加しているアントシアニン(4)に分けられる。
狭義のフラボノイド(flavonoids)は、フラボン類ということだから(1)の骨格である。しかし、一般にフラボノイドは上記の4つのグループ、つまり大豆で有名なイソフラボンも、紫芋で知られるアントシアニンも、すべてフラボノイド(広義)といっている。
イソフラボンは、フェニル基が2位でなく3位だからフラバン骨格ですらないが、フラボノイドに含める。そのため、近年は2つのベンゼン環(A、B)を3つの炭素でつなげたものをフラボノイドの定義とするらしい。
ちなみに私は健康食品より色素、染料が好きで、演題自由な講演を頼まれると、アントシアニンなどの色素、染料に関して話してきた。
だからフラボノイドと色について書いておく。
フラバノン類(2)は共役二重結合が途中で切れ、短いので色はない。フラボン類(1)、イソフラボン類(3)は3環全体に共役二重結合がつながっている。しかしカロテノイドと比べると短く、発色には不十分である。ところがポリフェノールだから水酸基がある。この酸素原子の孤立電子対が環の二重結合と共役しうる。とくにアルカリ性になればOHの水素原子が離れ、共役しやすい。(これはフェノールフタレインがアルカリ性で赤くなることを思えばよい)
一方、アントシアニン(4)は紫芋、黒豆、ナス、ブルーベリー、赤カブ、紫キャベツなどに含まれ、他のフラボノイドとちがって鮮やかな色を持つ。色=健康成分=アントシアニン、といった認識すらある。
これはC環のエーテル酸素原子が液性に関係なく孤立電子対を共役二重結合に参加させているからである。酸素原子が、恒久的にパイ電子を引っ張ることで、環上だけでなく遠く隔たるフェノール性OHにもおよび、それらの水素原子が離れやすく、孤立電子対が常にフラバン骨格の共役二重結合につながる。すると励起エネルギーが小さくて済み、吸収波長が紫外線より可視光線領域まで延びてくるため、色が出るのである。
2024₋11₋26
千駄木菜園の里芋。今季2回目の収穫、4株
サトイモの葉っぱにもフラボノイドが含まれている。
人参の葉にもある。
フラボノイドとかポリフェノールとか、そんな何処にでもあるような化学物質を有難がってはいけない。
さて、前置きというか、アントシアニン、イソフラボン、ポリフェノール、カテキンという、なぜか世間の誰もが知っている言葉の説明が長くなってしまったが、本題はそれではない。
これらが健康に良いという嘘についてである。
毒物摂取や暴飲暴食などは体に悪いとは思うが、血糖値低下、体重低下が健康に良いだろうか?
例えば、何かを食べ続けて体重が5キロ減ったとする。これは普通に考えたら体に良くないものを入れたと考えるべきである。たとえば、胃腸の健全な働きを妨害するような「毒」を食べたとするほうが自然である。
それが下痢とか発疹とか倦怠まで行かない程度の軽い毒ならば、やせた痩せた、と喜んでいる。その食品にイソフラボンとかアントシアニンとか含まれていれば健康食品、機能性食品として売る。また喜んで買う。しかしイソフラボンとかアントシアニンなどは(量の大小を問わなければ)あらゆる植物にある。こんなありふれたものを有難がる人々を不思議に思う。
血圧が下がったとか、血糖値が下がったとか、宣伝しているが、これには大きな問題がいくつもある。
1つは、信ぴょう性である。
こういうデータは簡単に測れるが最先端の科学でないため論文にならない。大学は研究費をもらったから試験するだけである。ところがお金をもらっていると、血糖降下が出ないと、実験がうまくいかなかったとして(実際しばしば起こる)、やりなおす。何回かやっていい結果が出ると、それを報告する。また本来そんな作用がなくとも、一回目でたまたま血糖降下が出れば、それを最終報告としてしまう。
製薬会社の新規化合物だとそんなことは許されないのだが、もともと自然物、食品であれば厚労省の規制はほとんどなく、第3者のチェックはないから、試験時の生データもきちんと管理されず、実験ノートもまともに書かれていないものが多い。
2つ目は、一般研究者すらよくやることだが論理の飛躍がある。
ポリフェノールは老化防止、美容と健康に良いという。フェノール、特にポリフェノールがラジカルなど活性酸素の消去に役立つのは事実である。そして老化は活性酸素などによるDNAの損傷が引き金という「仮説」がある。しかし、これだけのことでポリフェノールが老化防止になるだろうか?
ポリフェノールなどラジカル消去物質など日常の食事から大量に入っている。若ワインを大量に飲んで長寿になるとは思えない。もちろん誰も実証しておらず、たんなる都合の良い主張である。
3つ目は、他の作用を全く調べていないことである。
例えば、あるアントシアニン、またはそれを含む食品がコレステロールの吸収を抑えるというデータを出したとしても、そのアントシアニンに発がん性はないか、催奇形性はないか、不整脈を起こす心配はないか、そんな試験は金がかかるから大手製薬会社でないかぎり、まったくやらない。規制当局も、もともと食品だから大丈夫だろうと免除している。しかしめったに食べなかった食材を食べ始めたら今までとは違うかもしれない。
4つ目は、情報にバイアスがかかっていること。
合成物質なら毒性がより強調され、植物成分なら良い作用がメディアに取り上げられ、それが広まる。皆健康に関心があるから、広がり方は全国民に渡り、さらに戻ってきてメディア、評論家?が迎合する。
2024₋11₋26
里芋を掘ったついでに先日伐採したイチジクの根を掘り出した。
(過去ブログ20230215 イチジクの根にびっくり)
もちろん、イチジクにもフラボノイド(アントシアニン)が含まれている。
そもそも、あらゆる物質は、量が少なければ何も作用が出ず、そのうち期待される作用が出て、それを越えれば毒性が出る。だから一つの物質に良い悪いわけはなく、体に入れる量によって良くも悪くもなる。
テレビで良いと言われても、効かず、食べ過ぎれば毒である。適量が示されていても、合成物質なら含量が決まっているが、自然食品では、産地、気候によって含量は様々。
良心的?臆病?なメーカーは毒性が出ないように、「効かなくても良いから」1日使用量を少なめに設定する。飲んで効いたとすれば気のせいである。
本来、歴史的に自然界から食品として選ばれたというものは、もともと血糖降下作用とか降圧作用がほとんどないから人類が食べ続けてきたものである。だから期待する効果を得ようとしたら歴史的な分量を越えて大量に摂取しないとダメだろう。そうしたとき、普通なら現れない良くない作用も出てくるかもしれない。体にいい作用だけ出るなんて都合の良いことを期待するべきではない。
驚くべきことは専門家と思われている薬剤師とか栄養士とか医師まで、アントシアニン、イソフラボン、ポリフェノールが体にいいと言っていることである。
そもそも「体に良い」なんて言葉はおかしいと思わなくてはいけない。
あるのは血圧を下げるか上げるか、尿を減らすか増やすか、といった「作用」だけである。
その作用(体の恒常性を乱すという意味では「毒」)を使って、病気の人、具合の悪い人を治療するのであって、もともと健康な人(体が正常、最適状態を保っている人)がさらに長生きしようとか美人になろうとか思うのは無理な話である。
だいたい、アントシアニンなどポリフェノールは植物が人間の健康の為に作っているのではない。植物に考える力はない。神様が人間の長寿の為に植物に命令して作らせているわけでもない。植物は自分自身の生存、繁殖の為に合成している。そんなものが不老長寿の薬になるはずがない。
ポリフェノールなどは意識しなくとも、日常的に食事からとっている。
食品で一番大事なものは何か?
糖質であろう。これがなくなればATPをつくるため糖質の代わりに脂質、タンパク質が動員される。
糖質が悪者にされ、糖質フリー商品が出ているが、これはメーカーの販売戦略に乗せられた健康評論家と素直な消費者に支えられている。
戦前の日本人は魚や肉などあまり食べなかった。
1日必要なタンパク質80グラムは戦後アメリカ人の食生活を参考にして決めたものである。糖質は水と二酸化炭素に消費されてしまうが、タンパク質はアミノ酸に分解されてまた再利用される。脂肪酸も必要量は糖質から作ることができる。糖質は常に摂取し続けなければならない。
そもそも米・パン=糖質、肉・魚=タンパク質と思うことが間違いである。
精白ウルチ米、角形食パンにはそれぞれ、6.1、8.9%タンパク質が含まれていて(糖質は78.1、44.1%)、これは豚ロース、鶏卵のタンパク質、23.9、12.2%と比べて、桁違いに少ないというわけではない。(文科省公式サイトにある日本食品分析表)
タンパク質はアミノ酸に分解されて吸収され、体内で不要タンパク質から生成したアミノ酸と一緒になる。野菜類にはタンパク質はないものの、アミノ酸は含まれる。
これが、江戸時代、明治時代に米と野菜だけ食べていても生きていられた理由である。
ついでに発酵食品も書いておく。
これが体にいいなんて実験、研究は一つもない(やりようがない)。
発酵は堅い組織や吸収されない高分子(でんぷんやタンパク質)を微生物が分解することで、味が良くなったり、柔らかくなったりするのがメリットであり、健康には全く関係ない。
好きなものを好きなだけ食べるのが良い。
定年退職して昼からテレビを見ているといかに健康食品の宣伝が多いことか。コラーゲンやコンドロイチンをいくら飲んでもひざの痛みが消えるわけがない。
私はサントリーのおしゃれなイメージがこれで崩れた。
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