2025年2月19日水曜日

ロマネスコのフラクタル次元

今年初めて作った。

ブロッコリーとカリフラワーを交配してできた品種というが(あるいは自然発生?)、その形から世界で一番美しい野菜と言う人もいる。
2025₋02₋12
交配できるということは、ロマネスコ、ブロッコリー、カリフラワーは生物種としては同じ植物ということである。以前「アブラナ科の属と種」で書いたが、アブラナ科 Brassicaceae、アブラナ属Brassicaのヤセイカンラン種B. oleraceaである。

すなわちBrassica oleraceaのなかに、ロマネスコ、キャベツ、ブロッコリー、葉ボタンなどがあり、分類学的には全部同一の種(しゅ)である。また、近縁のアブラナ属アブラナ種B. rapa のなかにミズナ、カブ、野沢菜、小松菜、白菜、チンゲンサイなどがある。(これらは同一の種であり相互に交配できるが、生物種の違うキャベツとは交配できるない)。
一方、同じアブラナ科でもダイコンは属からして違い、キャベツ、白菜などのアブラナ属とは一人離れている。
2025₋02₋12
ロマネスコの葉、株は意外と大きくなる。

葉は茹でて食べるとキャベツの外葉(苦い)、大根の葉(硬い)より旨かった。高いところにあるから泥が付くキャベツの外葉より使いやすい。

2025₋01₋26
ブロッコリーは一本だけ植えた。

カリフラワーもブロッコリーも無数の遺伝子があるからその組み合わせで無数の交配種ができる。そのなかで栽培しやすさ、味、見た目などで選ばれたのがロマネスコ。16世紀にローマで生まれたという説があるが(交配ではなく自然発生)、1990年ころからフランスで栽培が盛んになり流通し始めたらしい。
2025-02-15
収穫した。下の板は幅18センチ。

2025-02-15
中の芯から柄が伸びて表面に実が並ぶ。
その一つは全体の形とそっくりである。

部分が全体の縮小相似形になっている構造、概念をフラクタルという。

部分を取り上げ、それを拡大すると全体にそっくりな形になる。(自己相似性)。リアス式海岸、樹木の形、山の稜線、血管や気管支の走行など。
図形だけでなく風や音楽、株価なども、時間軸を横に、強弱や高低を縦軸にとれば、そのパターンはフラクタル構造になっている。

私がこれに魅せられたのは、今から33年前の1991年9月26₋28日、仙台で開催された日本生物物理学会であった。まだ仙台国際会議場はできておらず、年会は青葉山の東北大キャンパスで開かれた。
そこで、当時若くしてフラクタルの第一人者であった高安秀樹氏が特別講演した。
20世紀の物理学は量子力学と相対性理論により、ミクロな世界から宇宙まで大きな進展を見たが、身の回りの当たり前の風景に鈍感だった。フラクタルは、寺田寅彦が好きそうな素朴な形、現象に数学的解釈を与える新しい学問だった。
帰宅してからしばらくフラクタル、カオス、揺らぎ、などの本を買って読み込み、以後、私が自然を見るとき、エントロピーの概念とともに、フラクタルというものが柱になった。

例えば、その後、専門となるイオンチャネルの開閉パターンも、通常は1msのオーダーで繰り返すのを観測しているが、ときにそれが数秒のオーダーで塊となっていて、さらに時間オーダーでまったく開かない状態と、開きやすい状態があることを順天堂の大地陸男先生が発見した(彼はavailable, nonavailableと呼んだ)。これもフラクタルである。
2025-02-15
秤量、934グラム
ブロッコリーより重い。

一般にはあまり馴染みがなかったフラクタルであるが、野菜としてロマネスコが出て、その奇抜な形から「フラクタル」が世間にも知られるようになってきた。

フラクタルで面白いのは次元という概念である。
たとえば
線分(1次元)を2つに分けると縮尺1/2の相似形が2つ(2^1)できる。
長方形の辺を2分するよう切ると縮尺1/2の相似形が4つ(2^2)できる。
直方体の辺を2分するよう切ると縮尺1/2の相似形が8つ(2^3)できる。
このべき乗の部分が次元と一致する。

つまり縮尺を1/a、次元をD、縮小相似形が b個できるとすれば、
a^D=b
すなわち、D=log(a)b=log.b/log.aである。

これを一般化すれば、1,2,3という整数だった次元が半端な値もとれることになる。
実際、フラクタルは無限に分割しても相似形がずっと現れるとすると、たとえば海岸線の有限に見えた曲線が無限の入り組みからなり、つまり地図上での曲線(1次元)が厚みのある帯(2次元)的な姿を持ってくる。
2025-02-16
ロマネスコの場合、全体の縮小相似形が親の表面に規則正しく並んでいる。この表面は有限ならもちろん二次元だが、その斜面に突起が無限に出現するとなると、表面積は無限となり、厚みを帯びてくる。すなわち表面でありながら3次元的な広がりとなる。

(現実はもちろん無限ということはなく、1キログラム近い親を1番、表面にびっしり並ぶ相似形の子供を2番、さらに2番の表面に並ぶ子供を3番とすれば、3番がごつごつだから写真でも4番が存在することは分かるだろう。大きな(底辺のほうの)2番を取り、その中の大きな3番、大きな4番を見れば肉眼でも5番まで見える。)

(無限として)実際にロマネスコのフラクタル次元を求めてみる。
まず、縮小率と個数を求めねばならないが、これは簡単ではない。
なぜなら、同じ世代の子供でも大きさが違うからだ。底辺に近いものほど大きい。また同世代の子供の数も先端に行くにしたがって無限に小さくなるから数えられない。
とにかくバラバラにして見た。
2025-02-17
左上が1番(親)の先端部分。
2番、3番は2~3個食べてしまった。

寸法を測ると親の底辺は170㎜
2番については、下のほうの30個をとると中間のものは42㎜(1)
もう少し上まで60個とると22㎜(2)

つまり、(1)なら
D=log30/(log170-log42)=1.477/(2.23-1.623)=2.43
(2)なら
D=log60/(log170-log22)=1.778/(2.23-1.34)=1.99
(1)は良い値だが、(2)は二次元以下になってしまった。これは先端に行くに従い小さくなって正確に測れないことや、個数が爆発的に増えるから数えきれないことによる。
下のスカート部分だけで計算するのが良いと思われる。

1991年当時、私は田辺製薬・薬理研究所の中枢神経系部門にいた。生物物理学会というのはフラクタルとか蝙蝠の超音波とかキリンの模様とか進化の数理モデルとか生物発光とか、およそ製薬会社の業務と関係ない学会で、そこに行かせてくれた田辺製薬の大らかさに感謝している。

社に戻ってから同僚の片山泰一君に話すと彼も興味を持った。揺らぎ、カオス、フラクタル関連の本を何冊か貸したのだが、彼はもらったと思ったのか、その後私に返さずに退職、阪大医学部教授になった。本は他にもまだあったのだが、今探したら「フラクタルって何だろう」高安秀樹、高安美佐子(ダイヤモンド社1988)だけ箱の中から出てきた。
奥付をみたら高安氏は1958年生まれ、私より2歳若く、1991年当時は33歳だった。

2025-02-15
ブロッコリーは親玉をとると、脇の小玉も成長してくる。
いっぽう、ロマネスコは一玉とると、それで終わり。親の片方であるカリフラワーに似た。

なお、ブロッコリーは、ロマネスコほど話題にならないが、その頭は樹木のようになっていて、枝分かれはフラクタル構造である。


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