2019年6月28日金曜日

エアコンが来て叔父を思う

6月27日、先日買ったエアコンが来た。
シャープAYJ40X2 
私としたことが不覚にも(いや、エアコン初心者ゆえに?)間違えてオーバースペックのものを買ってしまった。
22万9300円(税抜き)が値引きで20万。

業者の工事をみていて叔父を思いだした。
2015年夏、彼はこうやって一人でエアコンの取り付けを見ていたはずだ。
2019-06-27

子供のいない叔父は離婚したあと家を売って一人暮らし。
老いても我々の世話になることを遠慮し、ぎりぎりまで一人で家事をしっかりやっていた。
心不全の持病があった。
夏、水を飲めば肺うっ血になるので水分を控え、利尿薬を飲んでいた。
しかし水を飲まずに暑い部屋にいたら命にかかわる。
長年扇風機で我慢してきたが、さすがにエアコンが必要だった。

叔父は外出もできないから私が家電量販店に行った。
自分のエアコンじゃないから、畳数と値段だけでテキトーに選んだ。
彼は毎日24時間部屋にいるから、工事日はいつでも良い。

古い公団の団地だったから、エアコン取り付けの前に、公団指定の電気屋さんも工事に来た。
私は、取付業者と公団へ電話しただけで、2回の工事日に立ち会わず、当時83歳の病人をして一人で対応させてしまった。

彼は2年後の2017年末、ついにゴミ出しも出来なくなり、介護付きグループホームに移った。
エアコンは2年使っただけだった。
「千駄木に持って行って使ったらどうだ?」と言われたが、私は冷房否定主義者。
清掃廃棄業者に他の電気製品、家具、仏壇・位牌、布団などとともに一切合切処分してもらった。

彼は、エアコンがない家に住む私の妻をずっと心配していた。
「可哀想じゃないか、お金を出してやるから買ってあげろよ」
と毎年言っていた。
2019-06-27

彼はグループホームに移って半年、4月28日に我々と外食できたが、容体急変。
5月1日夕方、救急車の中で心肺停止。
延命措置はするな、とホームに書面で出した意思表示、遺言は、救急隊員と病院に伝わらず、彼らは必死の蘇生術を試みた。そのおかげで25分後に拍動復活。
私が病院に着いたとき、暖かい手を握ることができた。
しかし人工呼吸のホース、点滴チューブなどをつながれたまま目を覚ますことはなかった。

皮肉にも、植物状態すなわち一切体が動かなくなって心臓は安定した。
本人は何もわからないはずだが、世話になった私としては朝か夜、できるだけ見舞いに足を運んだ。

6月に入り、薬疹だろうか、免疫系の破綻だろうか、全身の皮膚が赤くなり、そのうち目や耳はただれ、あちこち腐ってきた。延命措置を拒否した本人にとって、醜い姿をさらすことは無念だったであろう。
私はまだいいが、生前の優しい思い出を持つ妻や子には、ミイラのように顔まで包帯に覆われ臭いも出てきた姿を見せたくなかった。

6月27日水曜、16時。晴れ。
病室のとなり、ナースステーションの大部屋の隅で丸椅子に座り、担当医と面談。
「点滴の針が詰まりやすく難しくなっています」と言われた。
「もう延命はいいです」と小さな声で答えた。
「では昇圧剤、抗生物質は使いません。点滴の針が詰まったら終わりです。呼吸が止まったら電話しますので今度はゆっくり来てください」
あふれる涙を見られるのが恥ずかしくて部屋を慌てて出ようとしたとき、10人近くいた看護師が全員立ち上がって私に頭をさげて見送ってくださったことが忘れられない。

6月28日木曜、20時
大宮でラテンダンスのレッスンを受けたあと復習して着替えてからタブレットを見た。
亡くなったという連絡が入っていた。
享年86。

我が家の5人を入れても11人しかいなかった葬儀の喪主は私。
遺言に従って、私、妻、3人の子供は10万ずつもらった。
そのまま財布に入れると貰ったことすら忘れ、いつの間にかなくなってしまう。
そこで私は封筒に彼の写真を貼り、10万ずつ入れて渡した。
子どもたちはどう使っているか知らない。

思ったより大きな室外機に改めて後悔

2019年、エアコン工事は進む。
今日は6月27日木曜。
亡くなったのは6月28日だが、むしろ命日は今日ではないか?
これで最後と顔を見たのは27日だし、1年前とまったく同じように6月終わりの木曜、18:30から同じフロア、同じ先生、同じ種目のレッスンがあるのは今日27日である。

エアコン来た日が、「お金出すからエアコン買いなよ」とうるさく言っていた人の命日というのは、何かの縁を感じた。
今回のエアコン代金20万は、我々夫婦がもらった分、20万円をあてよう。
叔父はたいそう喜んでくれるに違いない。

厄介な連絡、心配な連絡が来なくなって1年。
ダンスのレッスンに向かいながら、一周忌をしなくてはいけないな、と思った。


千駄木菜園 総目次

0 件のコメント:

コメントを投稿