2023年4月1日土曜日

ジャガイモのモザイク病はタバコモザイクウィルスか?

順調に、というか世間から見たら「異常に速く」成長していたジャガイモに異変が起きた。

季節外れに暖かい日が続いていた3月12日ころ、育ちの悪い株が一つあった。葉に斑点があり、病気のようだったが一株だけだったので放置したら、1,2週間ほどで全体に広がった。

ちゃんとジャガイモを作るのは(種芋を使わなかったから「ちゃんと」とは言えないが)初めてなので、病気も初めて。他の野菜でもこれだけ壊滅的にやられるのは経験がない。 
2023‐03‐27
健全な株と病的な株の差は歴然

葉の裏を見るとところどころ枯れている。
ネットを見ると、ジャガイモの葉が黒っぽく壊死していく病気には疫病とモザイク病があるらしい。

しかし疫病というのは変な名前だ。普通名詞ではないか。
「ジャガイモ疫病」とでもすれば鳥インフルエンザとか豚コレラみたいに病名らしくなるが、トマト、ナスなど他のナス科植物にも感染するから、やはり「疫病」なのだろうか。

まあ、ペストも英語はplague。疫病という単語そのものだから、最初に発見されて名付けられるものは、そういうものかもしれない。

ジャガイモの疫病の英語は、Phytophthora infestansで、病名でありながら病原微生物の種の名前でもある。
属名のphytoは植物、phthoraは腐敗、種名infestansは感染を意味するから、英語でも普通名詞のような名前である。フハイカビ科の真菌で、1845年から1846年にアイルランドを中心にジャガイモ飢饉を引き起こしたジャガイモ疫病菌の本体である。アイルランドでは100万人が餓死し、多くの人がアメリカ、カナダに移住(J・F・ケネディ大統領の祖先もそう)。総人口が半分になったほどの世界史的事件である。

しかしよく見ると、病変は小さな斑点が多い。病変部が島のように広がるジャガイモ疫病よりも、ウィルスで感染する、モザイク病の可能性が高い。モザイク病も普通名詞のような変な名前である。
こちらも「ジャガイモモザイク病」と呼んだほうが病名っぽい。しかし「ジャガイモモザイクウィルス」というものはなく、様々なウィルスがこの病変を引き起こし、また各ウィルスは様々な植物に感染するらしい。

ん? 学生時代に習ったタバコモザイクウィルスというものがあったな。タバコはジャガイモと同じナス科である。
我が家のウィルスはかの有名なタバコモザイクウィルスだろうか?

ちょっと調べてみた。
初めて知ったのだが、ウィルスも、ほかの生物同様、科(family)、属(genus)、種(species)で分類されるらしい。目で見てはっきり違う植物、動物、菌類などと違い、化学物質であるウィルスもこうやって分類されているとは。

例えば、キュウリモザイクウイルス(Cucumber Mozaic Virus:CMV)はククモウイルス(Cucumovirus)属で、主にウリ科やナス科、アブラナ科、ユリ科、キク科などに感染する。
タバコモザイクウイルス(Tobacco Mozaic Virus:TMV)はトバモウイルス(Tobamovirus) 属で、主にナス科やマメ科、キク科などの植物に感染する。
そのほか、チューリップモザイクウイルス(Tulip mosaic virus:TulMV)やカブモザイクウイルス(Turnip mosaic virus:TuMV)も野菜に感染するらしい。

教員時代、ウィルスを分けるにあたり、目、科、属ではなく、ボルチモア分類を教えた。

1.2本鎖DNAウイルス (dsDNA)
2.1本鎖DNAウイルス (ssDNA)
3.2本鎖RNAウイルス (dsRNA)
4.1本鎖+鎖RNAウイルス ((+)ssRNA)
5.1本鎖-鎖RNAウイルス ((−)ssRNA)
6.1本鎖RNA逆転写ウイルス (ssRNA-RT)
7.2本鎖DNA逆転写ウイルス (dsDNA-RT)
の7種である。

これは、アブラナ科やネコ科のように、生物としての形態が似ているもの同士を集めてグループ分けしたものではない。
核酸と少数のたんぱく質からなるウィルスを、形態ではなく化学物質として分類したものである。

ウィルスは病原微生物とされるが、よく言われるように化学物質と生物の両方の性質を持つ。
化学式で書くことができる少数のたんぱく質と核酸からなる。これらは純然たる化学物質である。物質というのは、均一な微粒子であれば、それらが結合するとき規則性をもって配列する。すなわち結晶化する。
タバコモザイクウィルスの結晶
(ウィキペディア)
TMVは、初めて発見されたウィルスで、結晶化したスタンリーは1946年ノーベル「化学」賞を受賞した。

化学物質、結晶というものには、生と死がない。
ヒトをはじめとする動物には死という時点があり、その前後で構成する細胞内外の成分、すなわち化学物質にほとんど差がない。しかし明らかに死という瞬間がある。つまり化学物質は死なないが、システムには死がある。化学物質であるウィルスは徐々に核酸が化学的分解していくことはあっても、分解されなければ永遠に感染活性をもつ。

(コロナ対策で奨励されたように、アルコールをかければ不活性化するが、死ぬ(分解する)わけではなく、構成たんぱくなどが解離するだけである。再び水に戻せば会合し活性ウィルスとなる。しかし夾雑物がある中でアルコールによって拡散されてしまえば再び会合する確率はゼロに近い)

生物と無生物の間は何か?
生と死の間は何か?

庭のジャガイモを見てこんな問題を考えたわけではないが、これを書くにあたり、ウィルスの電顕写真を見て、改めてそう思った。
2023‐03‐27
さて、カビの仲間に感染したジャガイモ疫病と違い、ウィルス感染症にきく農薬はない。
モザイク病にかかったジャガイモは救いようがない。だから感染した株はすぐに取り除いて畑の外に廃棄しなくてはならない。
と書いてあるが、もう手遅れである。
今から半数近く引き抜いても、残った株も遅かれ早かれ感染していくだろう。

そこで、自然治癒を期待して、枯れてきた葉っぱだけ取り除くことにした。
枯れかけている葉は手で曲げるとポキンと折れる。

市販の種芋と使わなかったからか? 
ビニールで保温していたからか? 
異常なほどに暖かい春だったからか? 
発症原因は分からない。


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