芸術的センスがなくて、立派な美術館に入ってもあっという間に出口についてしまう私だが、聖徳絵画館は何回も入った。
明治天皇の一生にあわせて明治という時代を前田青邨、鏑木清方など戦前の一流画家80人が1枚ずつ書いた大型絵画(3.0x2.5m)が納めてある。
憲法発布式の絵(51和田英作)などは日本史教科書で覚えている人も多いだろう。
何十年も変わらぬ展示のためか、まったく宣伝せぬためか、あるいは人々はマスコミで話題になる展覧会ばかり好きなのか、とにかく何回行っても人はほとんどいない。
気に入ってるのは、絵に具体的な意味があることである。
例えば13江戸開城談判の図(結城素明)。
勝海舟が床の間を背にして西郷と向き合っている。茶碗の小さな十文字から場所が薩摩藩邸とわかる。するとなぜ勝は上座にいるのか、などと考えるきっかけができる。武家は、特に薩摩は座布団を使わないと何かで読んだが、絵もそのとおりであった。
また47岩倉邸お見舞い行幸の図(北蓮蔵)では、嫁が布団の上に乗ってひれ伏している。
よく見ると危篤の具視を抱き起こしているのである。翌日死去する彼は、布団の上に袴を広げることで、精一杯礼装していた。天皇一人が立ち、はじにひれ伏す夫人と四方に置かれた氷の塊。逆光の中、夏の座敷は暗く静かであった。
絵は、画題にゆかりある個人、団体の奉納という形を取っている。
奉納者の意味を考えるのもおもしろい。
例えば1御降誕の図(高橋秋華)が御生母の実家の中山家。
5大政奉還の図(邨田丹陵)は徳川慶光が奉納。左側に老中板倉勝重、若年寄永井尚志。右側は守護職松平容保、所司代松平定敬という。
37西南役、熊本籠城の図(近藤樵仙)は細川護立。
48華族女学校開校式に行啓、言葉を賜るの図(跡見泰)は常盤会から奉納。答辞を読むのは校長の谷干城。奥右の緑の衣装は幹事の下田歌子とある。
ここには“光と影の織りなすハーモニー、静寂の中に時空を越えた存在感、、、”などといった難しい美術評論家の文章は必要ない。絵は時代考証をふまえ正確であるがゆえに、こちらの準備具合に応じて発見があったり、100年前のその場面の雰囲気が味わえたりする。
いくら誰もいないとはいえ、撮影禁止なので、昔買った画集の写真を載せた。
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