セレンディピティの例として有名なものにポスト・イットがある。
3M社の研究者が接着剤を作ったのだが、弱くて使えなかった。
ここで別の研究者が登場する。彼は教会で讃美歌集の栞がすぐ落ちてしまうことをみて、この接着剤のすぐ剥げることを逆手にとった。
栞につけてみると具合がいい。
その後すぐ剥げるメモ用紙として爆発的に売れたという。
セレンディピティが失敗作を大成功に導いたという例である。
多くの人はこの段階で話が完結したと思っている。
しかし、この例にはもっと重要なことが隠れている。
つまり、どうしたら(どういう環境なら)セレンディピティが生まれるかという問題である。
この舞台が3Mであったということだ。
3M社は、以前Minnesota Mining & Manufacturing Coといった。
名前の通り、ミネソタ州でコランダム(鋼玉)を採掘する会社として1902年に設立された。コランダムは砥石に使われる硬い鉱物である。しかし期待に反して品質が悪く、会社は採掘事業を止めて他に生きる道を求めた。
1914年 酸化アルミニウム(コランダムの主成分)を使ったサンドペーパーがヒット。
濡れた状態でも使えるようにと
1921年 耐水性サンドペーパーの発明
これが自動車のさび落とし、塗装落としに使われたことで、塗装に進出。
塗装したくない部分を一時的に覆うものが必要ということに気が付き、
1925 マスキングテープを開発した。
この粘着テープの技術、ノウハウから
1930 セロハンテープ
1931 接着剤
1945 ビニールテープ(絶縁用)
1960 サージカルテープ
1980 ポストイットと、次々と新製品を生み出す。
さらにサンドペーパーの延長に
1958 床磨きの不織布研磨材
1959 家庭用ナイロンたわし
研磨作業時のダスト吸引防止用に
1967 不織布防塵マスク
一方、サンドペーパーの粒子の研究(材質だけでなく形状も)の流れからは
1938 交通安全の反射シート
1947 磁気記録のオーディオテープ
1954 ビデオテープ
1950年代 オーバーヘッドプロジェクター
1992 液晶の輝度上昇フィルム
などを生み出していった。
(参考:田島慶三『世界の化学企業』東京化学同人)
つまり、もともとアイデアを商品に結び付ける会社だったのである。
ポストイットの発明は、S.シルバー(1941-) が1968年に作った接着剤を、1974年A.フライ (1931-)がセミナーで知ったことに始まる。
これはアクリル接着剤を微小な球体にしたもので、押しても粒はつぶれず(つまり広がらず)紙と接触するだけのものである。
ただ使い道が分からなかった。
ここで3Mの社風が効いてくる。
15%ルールというものがあり、彼らは本来の仕事と別なことを全体の15%だけしてもいいという決まりがあった。
Fry used 3M's officially sanctioned "permitted bootlegging" policy.
P.Henry (1992). “The Evolution of Useful Things.”
ここでbootlegというのは内緒の仕事というようなものである。
つまり、フライは本来の仕事とは別に、栞を固定するという自分のアイデアが使えるかどうか実験できる状況にあった。
セレンディピティは本来の仕事とは別に1割2割は別のこともやって良いという環境で生まれたのである。
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