60才を過ぎて、何十年も全く気が付かなかったことに突然気付くことがある。
この日を逃せばそのまま知らずに死んでいただろう。
アミノ酸は、glycine, alanine, isoleucine・・・・
トリプトファンを除いてすべて語尾が ine である。
40年もずっと見てきて今日気が付いた。
in と ine に関するファルマシアの原稿を書いた2009年も気が付かなかった。
なぜ、ine か?
それ以前に私の疑問は、化合物の語尾が ine と in で終わるものがあるが、この違いは何か? 全く紛らわしくて仕方がない・・というものだった。
pyridine、quinoline に対して
penicillin, streptomycin, coumarin と、同じ「イン」で終わるのに何が違うのか?
この疑問は100年以上前から日本人を悩ませていたようだ。
化合物語尾 in と ine の別如何 (筆者不明)
薬学雑誌1891年度490頁(明治24年5月号)
短い記事なので全文を書き写す。
(句読点、読み仮名を入れて読みやすくした)
予、一日某学士を訪ふて談偶々(たまたま)薬学上に渉る。
予問ふて曰く
「彼(か)の“アンチピリネ”“モルフィン”の如きは何故に語尾を変更して“アンチピリン”“モルフィネ”と唱ふるや」と。
主人笑ひて曰く
「これはまた異様の尋問を受くるもの哉(かな)。さしたる六ケ敷(むつかし)き理由はあらず。総てinの語尾は非亜爾加魯乙度に附し、ine の語尾を有するは亜爾加魯乙度(アルカロイド)の特徴なるが故なり」と。
余曰く
「其(そ)は英米等に於いては実に貴意の如く然(しか)らんかなれども、元来 in、ineの起源は希(ギリシャ)語の所謂 inos(有力、有効)にして往時の圓(規那圓(きなえん)等)と云ふ場合に適合するものなりと聞く。左れば inもineも文法上に於いては同一にして薬局方上如斯(かくのごとく)区別を付くるは間違を生ずる基ならずや。已に先頃欧州に於いて右の如く語尾にのみ委(まか)せしため、Gelsemin(グルセミウム華爾斯(ワニス))をGelsemine(亜爾加魯乙度)と過まりて死を致したる大出来事のありしにあらずや。先生以って如何となす」と。
主人答へんと欲する如く唇頭動きしが、此時下婢襖開け入り来たりて主人に名刺を示すや、主人忽ち声高く余に向ひ曰く
「甚だ失敬なれども至急の用事出来したれば今日は」と。
余、意を悟り心中冷笑して去る。
(この記事はシをレに誤記していた。圓は塩の当て字かもしれないが不明)
さらに薬学雑誌の筆者は別の日、ドイツ薬局方、オランダ薬局方をみて Syrupus がSirupusに改められているのに気づき、ブルノー・ヒルシュ氏を訪ねる。
氏は例の美髯を捻りて曰く
「その事なり。余も実に不審に思い居たり。抑(そもそ)も Syrupusなる語は亜拉比亜のsrbに起源す。故に y或は iの字なし。希臘(ギリシャ)は之より serapionなる語を造り、中古の拉丁(ラテン)に初めて syrupus なる語生まれたり。薬名を記するに拉丁語を以ってするものとせば、必然 syrupusを襲用せざるべからず」(一部省略)。
そうだ、yと iも紛らわしい。
pyridineであってpiridineじゃないんだよな。
薬はinが多い気もするが
nifedipine, atropineもあるしな~
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