2017年9月12日火曜日

第37 明治時代は初雪が早かった

薬学雑誌1898年度191頁,1045頁
(明治31年)
薬学雑誌には意外と気象関係の記事がある。
有機化学が未発達で、今のような合成医薬品のないころ、薬は無機塩か、植物薬だった。
「霜雪は薬草栽培上に多少関係を有するものなれば・・・」と仙台の薬学雑誌通信委員が石巻測候所の初雪データを分析、日本各地の初雪と比較し、投稿した。 
        
測候所 観測開始 観測年数 平均初雪日 観測以来最も早い初雪
鹿児島  明16   15   12月28日  明治24年12月4日
大阪   明15   16   12月26日  明治16,17年12月4日
熊本   明23   8   12月12日   明治14,25年11月26日 
東京   明9   22   12月21日  明治9年11月17日
金沢   明15   16   11月28日  明治27,28年11月14日
石巻   明20   11   11月25日  明治22年11月3日
札幌   明9   22   10月29日  明治13年10月5日  

ここからいくつかのことが分かる。
1.東京の初雪は今と比べると早い。
一番早いのが11月17日。平均12月21日である。
ちなみに、雪が降った赤穂浪士討ち入り12月14日は、明治6年以降の新暦だと1月30日になるから降って当たり前の時期である。
 現代の初雪が遅くなったというより、そもそも雪自体が降らなくなったということだろう。

2.測候所が仙台でなくて石巻である。
 明治11年(1878年)内務卿から太政大臣に宛てた”気象測量場設置についての上申書”によれば、設置予定地として仙台が長崎、兵庫、青森、新潟と共に選ばれている。京、大阪など大都市よりも港湾のある都市である。実際、その後仙台ではなく、新たに港を作りつつあった野蒜(東松島市)に変更された。しかし、野蒜港は完成せず、明治20年8月に所在地を移転、県立石巻測候所と改称した。石巻の気象第6区管内には福島、宮古に出張所があった。
 現在東北地方全体をカバーする仙台管区気象台は、関東大震災後の1926年に地震計を設置するため、また、予報の問い合わせが増え、港湾だけでなく都市部にも気象官署が必要とされたために、新設された石巻測候所の仙台出張所が前身である。
 
一方、静岡の薬誌通信委員は、測候所がないため静岡衛生病院で気温、湿度、気圧を観測し、名古屋、東京と比較した。「斯くのごとき佳良なる気候は衛生上最も貴重すべきものにして、療養所として価値あらん」。

有機化学などが盛んになる前、薬剤師は植物学に興味を持つ一方、西洋人の発明した寒暖計で、データを取ることも仕事(趣味)であったようだ。

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