2017年9月15日金曜日

第40 明治の先天性免疫と天然免疫

薬学雑誌1908年度329頁(明治41年)

第34話「血清について(片山氏講話)」に書ききれなかったことを書く。

100年前は「万能秘薬」ばかりでちゃんと効く低分子医薬がほとんどなく、科学的に効く医薬品としては、むしろ抗体が「特効薬」として注目されていた。
もちろん今のレミケードやリツキサンのようにリウマチや癌は対象でなく、抗毒素、抗菌素として使われている。
抗体、免疫について当時の理解は意外に正確である。

「・・・破傷風毒素を馬に注射すれば之を斃す。されども初日に馬が斃れざる程の極少量の毒素を注射し、翌日は前日の2倍量、3日目はまたその倍量、以後漸次増量せば、数ヵ月後には馬は致死量の200倍もの毒素に耐えうるやうになる。之を原働性免疫といふ。この免疫したる馬の血清を人体に注射すれば破傷風の免疫を得る。之を被働性免疫といふ」。

まさにワクチンと抗体医薬の記述である。

「被働性免疫は他動物の抗毒素を一時借りたものなれば免疫性は短期日にして消滅する。人類に最も近き動物の血清を用ゆれば免疫は多少長く継続するけれども原働性免疫の如く長時日に渉らず」。

これを当世風に言えば、組換えヒト抗体医薬の半減期は、ウマ抗体より長く約3週間にもなるけれども、ワクチンの如く長期間ではない、という意味だ。確かに1980年代のマウス抗体は診断薬程度にしかならず、キメラ抗体、ヒト化抗体になって初めて医薬となった。

ではウマ抗体の半減期はどのくらいだろうか?
ヂフテリー毒素1単位を打つ直前に抗毒素を打つなら、それは25単位で中化することができるが、30分前ならば250単位、2時間前なら100万単位の抗毒素が必要という。
事実ならずいぶん短い。

ここまでの話は後天性免疫であるが、先天性免疫についても述べている。
A、B、2種類あるという。
「A.種族性抵抗力。之はある種類の動物全体が共有するもので、例へば人類は牛疫にかからぬ、と云ふやうなものである」。
「B.各自性抵抗力。之は、動物個体各自が特有する天然免疫で、例へばコレラ病流行の際に一つ鍋の飯を食ふても甲は容易に感染し、乙はまったく感染せず、丁は伝染しても軽症・・・・」。

天然免疫とは、2011年ノーベル賞の自然免疫と似た言葉でもまったく別の話であった。

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