2021年5月14日金曜日

なぜ日本の製薬会社はワクチンを作らなかったか?

2021‐05‐11

イスをアルコールで拭き、アクリル板だの営業時間短縮だの、いろいろうるさくやっているけど、どれだけ効果があるのだろう?
信頼できるのはワクチンのみである。
米英ロ中はすぐに開発し、外交手段に用いているところもある。

医薬品の開発は普通の工業製品と比べ高度なサイエンスを必要とする。
急激に成長してきた中国韓国では作れない。
日本は世界的に通用する医薬品を作ってきた先進国の一つである。
それがなぜ一般医薬品より簡単なワクチンが作れず、1年以上たった今でも他国のワクチン頼みであたふたしているのか? ノーベル賞受賞者も出す先進国ではなかったか?

テレビは感染者の数だのワクチン接種会場でのトラブルだの変異株だの、毎日同じことばかり放送している。どのチャネルも毎日不安をあおり政府の無能さを批判ばかりしているが、この「ワクチンが作れなかった」という根本的な問題をもっとまじめに考えなくてはならない。なぜならインフルエンザと同じく、コロナウィルスは今後も変異を続けずっと流行するであろうから。

テレビでちっともやらないので、製薬会社の研究所にいたものとして、書いておく。
本来ワクチンはがんの薬よりずっと簡単である。だから日本でも小さい会社が細々作っている。
新しいコロナにしても中国、ロシア、ファイザー、AZなどはあんなに早く作れた。臨床試験の簡略化はあったにしても、がんやアルツハイマーの薬はどうやってもこんなに早く作れない。

では、なぜ日本ではできなかったか。
理由はいくつかある。

1 ワクチンは国内製薬会社がやってこなかった分野であった。

国内でのワクチンは儲からないから大手企業はやらなかった。
北里、KMバイオロジクス(不祥事の化血研から事業譲渡)、阪大微研、デンカ生研などがインフルエンザや学童予防接種のワクチンなどを地味に作ってきた。受精鶏卵でウィルスを増殖させた不活化ワクチンが主流だが、今すぐほしい時、これは時間がかかるし大量生産に向かない。

国内メーカーが得意としてきた医薬品は有機合成で作る低分子化合物であった。しかし近年売り上げ上位の医薬品は抗体などバイオ医薬品が大半を占める。中外、協和発酵キリン以外、国内メーカーはバイオ医薬品へのシフトができていない。

その注目されるバイオ医薬にRNAやDNAなどの核酸がある。
遺伝子治療などを目的に、目的のたんぱくをコードするmRNAやDNAを脂質ナノ粒子にしたりベクターに入れたりして投与する。進んでいたのがビオンテック、キュアバック、モデルナなど欧米バイオベンチャーであった。
日本では動脈閉そく症を対象にHGF遺伝子を入れようとしていたアンジェスくらいだが、国内大手からの援助(協業)も不十分で経営そのものが苦しかった。

この時点でコロナが起きた。
がんや感染症の治療を目的に遺伝子を投与しようとしていた欧米ベンチャーはすぐ対応した。コロナウィルスのたんぱくの遺伝子配列が分かれば、それを合成し、投与すれば体内でウィルスタンパクが合成され、それに対する抗体ができる。鶏卵一つ一つにウィルスを接種して増殖させ、ワクチンに仕上げるという手法より簡単、迅速である。
しかし国内製薬メーカーはどこも自社で対応できなかった。

実は欧米製薬メーカーも低分子医薬の歴史が長く、バイオ医薬はそれほど得意でなかった。
だから近年競争のようにバイオベンチャーを買収してきた。ファイザーはインフルエンザワクチンで2018年からドイツのビオンテックと協同研究していたのが幸いした。アストラゼネカはオクスフォードと組んだ。

では日本メーカーも(資金を出して)大学やベンチャーと組んでやればよかったのではないか?

しかし急いで走るには躊躇した。

WHOが公表しているリストには臨床・前臨床段階を含めて272のワクチンがあるというが、そのうち日本のワクチンプロジェクトは5つしかない。
これは異常に少ない。
(実は272は確認していない。別のサイトでは発売中15、臨床入り46、前臨床14、合計75のうち、日本はアンジェス(P1/2)のたった1つだけだった。https://www.raps.org/news-and-articles/news-articles/2020/3/covid-19-vaccine-tracker)

いずれにせよ、異常に少ない。
技術以外の日本特有の「躊躇した」ほかの理由を考えなくてはならないだろう。


2.ターゲットが同じ、メガファーマが完成させるのは時間の問題、というものには手を出さない。

人間というのはみな同じである。人種差を問題にする人がいるが、基本的にどの人にも効く。多くの医薬品は動物にだって効くのだから。
すなわち医薬品というのは国境がない。世界で一番最初に開発すれば世界中で独占できる。日本の製薬会社でも画期的なものを作れば世界中で売られ、年間数千億円を稼ぐブロックバスターとなる。オプジーボしかり、エビリファイしかり。

コロナワクチンの場合、最初から中国と欧米ビッグファーマが開発に着手したことは明らかだった。彼らより先に開発するのは無理だ。政府援助と規模が全然違う。武田もベストテンに入ったがそれは希少疾患で急成長したシャイアーを合併したからであり、世界の危機を率先して救うという使命感も気概もない。
日本政府も早々とファイザー、AZ、モデルナと契約した。
この状態では国内製薬会社はもし能力があっても手を出さない。
どの会社も「人類の福祉に貢献する」とか立派な理念を掲げるが、それは会社イメージアップのきれいごとである。どの会社も善良な一般私企業であり、利益を上げることを優先しなくてはならない。
ワクチンは抗がん剤より簡単だと書いたが、簡単ゆえに欧米メガファーマがすぐ出してくることは分かっていた。国内メーカーは開発製造者でなくワクチンを待つ一般国民の側になっていた。

3.上からの命令でないと動かない

製薬会社の企画部門、研究所で働くものはコロナ以前から自分の仕事、テーマを持っている。以前、研究所の能力成果主義の問題点について書いたが、半年にいっぺんの業績評価のために、前もって決めた目標の達成を目指して業務をしている。そんな中で突然、個人的にコロナワクチンをやろうと思うことはない。
そもそも医薬品の研究開発は仲良し数人でできるものでなく、会社が組織として動かさなければできない。
昔はこれほど情報が瞬時に伝わらなかったし、研究所には(いい意味で)世事に疎い変な人がいたから一人二人で無謀と思えても無理やり始めればそのうち輪が大きくなって公式テーマになることはあった。しかし今はみな高学歴のまじめな研究員ばかり。組織の和を乱すような危険なことをしない。受け身になっている。
この問題は日本人全体に言えるであろう。
上からの命令がないと自分の問題と思わず、誰かがやるだろうと思う。
コロナのような緊急を要するものには自然発生的な個人の意欲に期待してはいけない。
しかしその命令すべきトップも国の様子見、受け身になっていて、どうしようもない。

4.日本で臨床試験をする難しさ

有効性を確認するにはワクチン接種者と偽薬接種者の発症率の比較をしなくてはならない。接種して4週間後から3か月くらい観察するとして、いま東京1千万人で1日1000人発症するなら、1万人に一人である。1万人観察して3か月でわずか90人、これがワクチン接種した群でゼロ人であることを示せばよい。
しかし短期間に両群1万人、合計2万人を集めるのは不可能。せいぜい一群1000人、2000人だろう。これではワクチン打たなくても3か月で9人しか発症しない。1か月で3人なんてノイズ(雑音)と区別するのも難しい。
初期のころはこの何十分の一、東京でも数十人の発症だったから、ワクチン打っても打たなくても発症しない。これでは臨床試験が成立しない。いっぽう感染者が何十倍も多い欧米でメガファーマが大規模で実施するなら成立する。

さらに今は日本でもファイザーなどのワクチン接種者が増えてきた。こうなると被験者の確保がむつかしくなる。すなわち他人が有効なワクチンを接種しているのに、数か月もワクチンを打たずに観察される人、また有効かどうかわからない研究中のワクチンを打たれる人を数千人も確保しなくてはならないからだ。

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昨年8月、厚労省はワクチン生産体制整備事業の助成先としてアンジェス、KMバイオロジクス、塩野義、武田、第一三共、英アストラゼネカの6社を採択した。ただし最大の助成を受ける武田(300億円)でも、自社開発ではなく、ノババックスのワクチンの生産だけである。塩野義(223億円)は2019年に昆虫細胞でワクチンを作らせるUMNファーマを買収したところで、第一三共(60億)はmRNAワクチンで東大医科研と組んだ。KMバイオロジクス(61億円)は従来型のワクチンのようだ。アンジェスは94億円。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00223.html

しかし8月というのは遅い。
もっと早く、「欧米に遅れてもいいから作ってくれ」と躊躇していた国内メーカーの尻をたたけばよかった。ちなみにモデルナは米政府から10億ドル(1080億円)助成を受け、完成したら1億回分で15億ドル、追加で5億回分まで拡大できる契約を結んでいる。

かつて私はアンジェスとUMNファーマに将来性を感じ株を買った。
しかしどんどん下がり大損して手放した。

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(承認の問題)

それにしても世界中で威力を発揮する海外ワクチンの承認が日本ではなぜこんなに遅いのか?
死者、倒産が続く中、人流抑制と営業自粛でコロナを乗り切ろうなんて甘すぎる。
なぜ海外ワクチンをすぐ承認しないか?

韓国やほかの国はそのまま欧米でのデータで承認する。
韓国SKバイオサイエンスなどアストラゼネカワクチンを輸出しているらしい。
しかし日本の厚労省は独自に日本人でのデータを要求する。人種差があるからというのだが、それは針小棒大という。アメリカではどの人種にも効いているではないか。

日本はサリドマイドなどの薬害以来、異常に規制を厳しくした。お役人は規則を守って粛々と業務をする。巷で何軒倒産しようが、何人死のうが関係ない。コロナ禍は自分の責任ではない。これがお役人である。(私も役人になったらそうなるかもしれない)

先日5月11日、だいぶ前に国内データを提出していたアストラゼネカやモデルナのワクチンについて「厚生労働省は、今月20日に承認の可否を判断する方向で最終調整しています」と報じられた。たぶん既に決めているだろう。わかっていたらもう発表して1日でも早く接種すればいいではないか!
緊急事態宣言やインドからの入国規制なども「実施する方向で調整し」、決めたとアナウンスしてからさらに数日後に実施する。緊急ならすぐやればいいではないか。

副作用が何万件に1件でも出たら大騒ぎするマスコミと国民にも責任はあるだろう。何万件に1件などは特異体質だから臨床試験ではなかなか分からない。アストラゼネカが昨年8月から日本人対象に行った試験はたった256人、これでやっと2月5日に申請した。(3月追加データ)。256人では何も分からない。儀式のようなものだ。

コロナワクチンのように緊急を要するものは、早めに承認して様子を見ながら慎重に使っていくしかないのである。半分治験のように、海外データを見て納得した人だけ自主的に(すなわち少しずつ徐々に)接種すればいい。そうすれば国民も接種者側も徐々に慣れ、待たせて待たせた挙句の、今のような接種会場の混乱もなかっただろう。

なぜか日本のマスコミではファイザーと比べ悪者にするAZワクチンでも、イギリスでは発症を激減させた。昨日5/13の時点で、7日間平均で新規感染者は2091人、猖獗を極めた最盛期6万人の30分の1である。日本は昨日 7057人で今後さらに増えるだろう。
2021‐05‐14
千駄木菜園は家庭菜園のブログで始めた。
そのうち散歩の覚え書きがメインになってしまったが、自分の専門や時事問題などは避けてきた。しかし政府のコロナ対応についてあまりに腹が立つので書いてしまった。

昨日、どのテレビ局も政治資金パーティに出席した中川医師会会長を盛んに批判していた。
しかし、よく聞けば朝8時から1時間、飲食なし(ペットボトルの水が持ち帰り用袋に入っていただけ)、距離を取り感染防止対策をしていたという。それなら、視聴者、国民が乗っている通勤電車よりずっとマシである。1,2社が報ずるならわかるが、どの局でも司会とコメンテーターがきれいごとで批判するのにうんざりした。マスコミはもっと調査、報道することがあるのではないか?
視聴者だって、違った視点でコロナを学んでみたい。


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2 件のコメント:

  1. 貴重なご意見を聞けて大変参考になりました
    日本は不思議な国ですね
    不可解なことが多すぎます
    いくつかその謎が解明されました

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  2. 野党やメディアは失言狩りばかりしないで、こういう問題点をあぶりだし様々な提言をしなくてはなりません。だらしない自民党の尻をたたかなくてはならない。
    マスク配布と自粛要請しかできないなんて、日本というのはこんな情けない国だったのでしょうか。

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