2017年5月21日日曜日

第16 各種イオンを舐めてみたら

味感ニ於ケル溶液ノ作用
薬学雑誌 明治32年度993頁(1899)から

薬局方には薬の味が書いてある.なるほど合理的だ.
五感のうち味覚,嗅覚だけは外界物を分子レベルで区別するからだ.無味のものでも口中に溶けて加温されれば,僅かでも気体分子が鼻腔に達し,膨大なGPCR群で識別され化合物特有の「風味」を出す.

錬金術に凝ったニュートンをはじめ,機器分析が一般的になる前の時代は,ほとんどの化学者は物をなめていたことは間違いない.学生時代、べろメーターという言葉を聞いたことがあるから少し前の先輩もなめていたはずだ.

この記事は外国文献紹介(須田)で,Kahlenbergが15人に試験してまとめたというもの.

「輓今の溶液理論によれば越歴(エレキ)を伝導する溶液の味は,溶在物質のイオンおよび離解せざる成分,両者の味なり(中略)而して酸味なるものは水素イヲンに因由するものにして・・(略)」 以下,水酸基イオンは「アルカリ性の味」を呈し(どんな味だ!?),強いものは「甚だ不快なり」という.

単独イオンを得ようと電気分解して、その液をみんなで舐めているらしい.
Clは塩様の味とある.Br, Iは濃くしないと味がしないようだ.
さらにNO3(舌の尖または周縁に辛辣にして燃ゆるが如し),SO4, 酢酸(少し甘い),Na(僅かに味を有すが記載しがたし),K(著明に苦く不快), Li,Ca, Mg, NH4(Ca,Mg同様苦い), Ag, Hg,と続く.

味の感想はその通りだろうが解釈など少し怪しいところがある.
無理もない.
アレニウスが電解質溶液について学位論文にしたのは1884年,しかしNaClのような安定なものが(酸でも熱でもない)ただの水で分離するとは誰も信じなかった.彼は1903年にノーベル賞を得たが,塩の解離という概念が受け入れられたのは1895年頃だ.

我々が感じる味は実は鼻腔に達する気化分子によるもので、舐めたイオンの味こそ舌で感じる味だろう。それでも対イオンのH+、OH-の味も混じるだろうが彼らはそこまで考えなかった。

変てこな記事タイトルにも注目したい.
イオンも受容体も常識となった現代なら単純に「イオンの味」!だろう.

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