皇太子嘉仁親王,東北巡啓
薬学雑誌1908年度1228頁,1235頁
明治41年10月,後に大正天皇となる29歳の東宮殿下が東北を旅行された.
腸チフス,赤痢,ジフテリアなどが普通にある時代,迎える自治体の苦労は大変なものだった.このとき薬誌の2つの地区通信は論文並みのそれぞれ4ページで様子を伝えている。
薬学関係者が大いに活躍したようだ.
仙台は,御飲料水に苦労した.
数十種の井戸水を検査し(固形分,KMnO4消費量,Cl,SO4,NO3, NH4, 重金属,細菌数など),さらに松島,塩釜の水8種の成績を録し,東宮職の選定を仰ぐ.その結果,市内大野邸井水,旧藩主伊達邸井水,松島瑞巌寺泉水のほか4種が合格した.薬誌にはその分析結果がある.合格水の1ccあたり細菌集落数は15から66個であった.
牛乳も苦心する.
仙台市の乳牛,一千余頭から種類,体格,系統,乳分泌期間,乳質、乳量で理想に近きもの求むるに,その数甚だ僅少なりしかば,技手を牧場に派遣.色,臭,鏡検(脂肪球は均等かどうか),比重,灰分,脂肪,乳糖,たんぱく質を調べ,5頭を選び東宮職の決定を待つ.
結果,市内早川氏所有の2頭に帰せり.この牧場は百数十頭を飼育し,病(結核)牛は常に見ず,飼料は自己の耕作になるものを使用していた.2頭のためだけに牛舎,運動場,搾乳所を特別に用意する.
蔬菜は伊達家の経営する養種園から,
魚は遠洋漁業者白石広造から,
鶏肉鶏卵は宮城家禽協会,
氷は青葉城裏の氷池から,
いずれも技術者が検査して御料に供せり.
岩手県は御膳水として,市内最良水の旅館内,および周辺井水5カ所を検査,東宮職はそのうち1つを指定(菌落数125).
御料乳は39頭中14頭の乳を選び定量分析,その結果推薦した5頭のうち,1頭が指定された.
皇太子でさえ、この騒ぎ。
最も皇室が尊敬されていた時代だろうか。
0 件のコメント:
コメントを投稿