2017年8月14日月曜日

第33 大正天皇、皇太子時代の旅行・その2

皇太子嘉仁親王,明治41年10月の巡啓(その2)
薬学雑誌1908年度1235頁

大正天皇が東宮時代に東北を旅行されたときの話を続ける.
岩手県通信には,地区全体の衛生管理が4頁にわたって書いてある.

巡啓が内定したあと,当局は直ちに告示を発し,関係する郡,市に対し臨時清潔法の施行を命じた.施行されると毎月1回臨検,通過の道筋にあたる各戸には毎月2回臨検.常に県民の健康状態に注意し,以って病毒萌芽の全滅を計った.

また衛生講話,幻燈(なつかしい!)によって伝染病予防に関する知識の普及を図り,全県を健康地として誠意,鶴駕の奉迎を期せり.

直前には,奉迎委員のほか,行啓あらせらるべき学校,会社の職員,生徒,従業員,使役する人夫,車夫,御旅館付近の住民に健康診断を行う.そして,麻疹,感冒など流行性疾病に罹れるもの,その疑あるものには,拝観,出勤の遠慮すべきを命じた.

行啓場所は3日前に大掃除.
御用室,ご休憩室の壁紙は,海綿でこすった.
仮漆(ニスのこと)の柱,戸,石灰壁,床は,3%カリ石鹸熱液を木綿または海綿に浸漬し30分間摩擦拭浄するよう指導されている.汚れた床は3%苛性ナトロン液で強く摩擦,洗浄後,カリ石鹸液で2回以上摩擦すべし.ただし“新築”すれば消毒は必要ないと決められた.

沿道の営業者には8月,9月と飲食物監視が施行され,その結果も載っている.
・琺瑯器具は154個検査し不適が17点(琺瑯剥離),
・清酒は555点検査で37点不適(ホルマリン含有28,腐敗9),
・ぶどう酒は308点全部合格だったが,
・清涼飲料水は2296点のうち不適85(沈殿混濁),
・野菜瓶詰めは6点すべて不合格(サリチル酸含有),などなど.
これらは皇太子ご一行に使われるわけではなく,いわゆる「とばっちり」である.

翌年に行啓が予定されていた福井,富山両県からは,関係者が視察に来ている.
東宮巡啓は全国に及び、大変な負担であった.

しかし各地とも,これに合わせて衛生思想の普及,電気の点灯,電話の開通,道路,公民館の建設などが同時に起き,江戸時代を引きずっていたような地方も近代化が一気に進んだようである.

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