三重県・実験つき衛生講演会
薬学雑誌1909年度960頁
当時、衛生教育は重要だったであろう。
コレラ、ペストという恐ろしい流行病の前に人類はなすすべがなかった。江戸時代からの迷信も強いころ、せめて被害が最小で済むよう、当局は新しい衛生思想の普及に努めている.
しかし、テレビも書籍もない時代にどう啓蒙したか?
三重県衛生課は,公衆衛生の講話会を各地で開いた.ところが,その効果がいまひとつだったので,関連物品の陳列と簡単な実験も一緒に見せる企画をたてた.娯楽の少ない当時、珍しいイベントは大成功し、その様子が薬学雑誌にある。
明治42年6月26日.伊賀上野.
会場となった大江座の入り口に,会名を染め抜いた紫の旗が交差して立てかけられると,朝8時の定刻前というのに,付近村落からつめかけた男女老幼が集まってきた.雨の中,皆,草靴履き,弁当持参である.教員に引率された生徒たちもいた.
大江座の本舞台から広場には,理化学試験器具,医用器具,消毒材料,薬品など,
2階にはペスト菌,赤痢菌などの標本,印度蚤,牛乳試験装置,甘味料,着色料,清涼飲料水,図解と分析表,統計表など,
3階は結核,ハンセン病に関する標本,図解,不良薬品,食器,玩具が並べられた.
とくに人気のあったのが4台の顕微鏡.
伝染病を媒介するハエの脚や染色した痰を見せた.
講話は,
「飲料水と防腐剤」
「結核・らいの予防」
「トラホーム・花柳病」など.
混雑のなか,警官十数名が整理に当たった.
夕5時閉会の予定が,当地の田中某から臨時電灯増設の寄付があり,説明者,講演者は昼の疲れもいとわず要求を入れ,閉会はなんと深夜11時.
来観者は2日で7000人.
出品目録の器機の中には,ピペットや乾熱滅菌器に混じって,
捕鼠器6,義眼数種,軽便用産婆器1,便器2,痰つぼ5,などもある.
アルコール漬け標本には,鼻茸,コンジローム,胎児,水晶体,酒飲みの心臓腎臓,卵巣嚢腫,鼠の条虫,などがあった.
「淋病患者の尿をもって洗顔したる結果破潰性眼炎を発し摘出したる眼球1」
「胎児模型8」「露人の頭蓋骨1」「結核牛の耳環1」「梅毒の図8」も目をひく.
さらに
7/10-11 四日市で6200人,
7/14 河芸郡神戸で2400人,
7/25-28 宇治山田で4100人,
7/31 度合郡田丸で2400人,
合計2万2千人を集めた.
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