ランキングの指標が売上高であることに異論があるかもしれない。
最近は高い医薬品が多く、とくに一般人が知らないような病気、ごく少数の患者で使われている医薬品で、総売り上げは決まる。つまり一般人がよく見る有名企業の順位と売り上げはリンクしない。また、たとえばオプジーボが年間3500万円という薬価が付いて、すぐそのあと規制当局に値下げされ、いま半額になっていたりする。だから会社の規模が変わらなくとも、売上高はずいぶん変わるものだ。
とはいっても、大きなメーカーはいくつもの薬をそろえ、総売り上げが減らないように、新薬や企業の買収を常に行っているから、意外と売り上げの順位は変わらない。
売上高以外にランキングを示す指標は見つからない。
販売した医薬品の重さを指標にしてもおかしいし、従業員数を指標にしても、兼業メーカーもあって、比較は難しい。
さまざまな調査会社が行う調査では、たいてい売上高のうち、医療用医薬品に限っている。決算報告書でも分かれている。
GSKは消費者向けヘルスケア部門を拡大し、昨年末ファイザーの同部門と統合し、新会社は1兆4千億円の売り上げが期待される。バイエルもOTC薬は世界2位でかつ農薬、動物薬などアグリビジネスの割合が高い。サノフィもエスエス製薬を傘下に置くなど、OTCに力を入れる。JnJもバンドエイドなどコンシューマヘルス薬品の割合が高く、それらは加えない。
またワクチンは入るが、検査薬は入らない。
以下に過去4年間の数字を示す。
18 | 17 | 16 | 15 | 2018 | 2017 | 2016 | 2015 | ||
1 | 1 | 1 | 1 | ファイザー 米 | 50,042 | 48,977 | 48,259 | 44,950 | |
2 | 3 | 3 | 4 | ロシュ 瑞 | 47,590 | 41,880 | 39,689 | 38,824 | |
3 | 2 | 2 | 3 | ノバルティ 瑞 | 44,751 | 43,085 | 42,706 | 39,602 | |
4 | 4 | 6 | 7 | J &J 米 | 40,734 | 36,256 | 33,464 | 31,430 | |
5 | 5 | 4 | 5 | メルク 米 | 37,689 | 35,390 | 35,151 | 34,782 | |
6 | 6 | 5 | 2 | サノフィ 仏 | 35,197 | 34,122 | 33,753 | 41,265 | |
7 | 8 | 9 | 10 | アッヴィ 米 | 32,753 | 28,216 | 25,638 | 22,859 | |
8 | 7 | 8 | 8 | GSK 英 | 30,945 | 28,898 | 28,793 | 27,251 | |
9 | 10 | 11 | 11 | アムジェン 米 | 23,747 | 22,849 | 22,991 | 21,662 | |
10 | 12 | 13 | 14 | BMS 米 | 22,561 | 20,776 | 19,427 | 16,560 | |
11 | 9 | 7 | 6 | ギリアド 米 | 22,127 | 26,107 | 30,390 | 32,639 | |
12 | 11 | 10 | 9 | A・Z 英 | 22,090 | 22,465 | 23,002 | 23,641 | |
13 | 14 | 15 | 13 | E・リリー 米 | 21,413 | 19,785 | 18,064 | 16,788 | |
14 | 15 | 14 | 16 | バイエル 独 | 19,777 | 19,020 | 18,177 | 15,257 | |
15 | 16 | 16 | 15 | ノボ・ノル 丁 | 17,670 | 16,978 | 16,655 | 16,081 | |
16 | 13 | 12 | 12 | テバ製薬 以 | 16,046 | 20,171 | 22,664 | 17,884 | |
17 | 18 | 17 | 17 | 武田 日 | 15,931 | 15,022 | 14,450 | 14,456 | |
18 | 17 | 18 | 19 | アラガン愛 | 15,787 | 15,941 | 12,885 | 11,321 | |
19 | 21 | 21 | 23 | セルジーン 米 | 15,260 | 12,973 | 11,185 | 9,256 | |
20 | 20 | 20 | 18 | ベリンガ・I 独 | 15,130 | 13,589 | 11,877 | 13,424 | |
21 | 19 | 24 | 27 | シャイアー 愛 | 15,017 | 14,898 | 10,886 | 6,100 | |
22 | 22 | 22 | 21 | バイオジェン 米 | 12,860 | 12,274 | 11,133 | 10,764 | |
23 | 24 | 19 | 20 | アステラス 日 | 12,103 | 11,600 | 12,102 | 11,235 | |
24 | 23 | 23 | 22 | マイラン オ | 11,269 | 11,760 | 10,967 | 9,363 | |
25 | 26 | 28 | 28 | CSLベ 豪 | 7,915 | 7,062 | 6,651 | 5,733 | |
26 | 25 | 25 | 25 | 第一三共 日 | 7,813 | 7,941 | 8,261 | 7,706 | |
27 | 27 | 27 | 24 | 大塚 日 | 7,403 | 6,911 | 6,943 | 8,027 | |
28 | 28 | 26 | 26 | メルク 独 | 7,376 | 6,873 | 7,588 | 7,697 | |
29 | 29 | 29 | 29 | エーザイ 日 | 5,471 | 4,984 | 4,634 | 4,343 | |
31 | 30 | 30 | 30 | セルヴィエ 仏 | 4,688 | 4,329 | 4,329 |
数字は国際医薬品情報 2016年~2019年から。
単位は百万ドル。億円とみてもよい。
ざっとみれば、抗がん剤のトップ3(いずれも全医薬品のトップテンにはいる)をもつロシュが強い。ファイザーが必死に逃げているが、涼しい顔をして追い越すのではないか?
ギリアドの落ちが目立つ。
抗ウィルス薬(AIDS、C型肝炎)ですい星のように現れたが、肝炎などは完治して新規患者が少ないのだろうか、3年前と比べ、これだけ落ちた会社はない。もっとも従業員数もそれほど多くない。
BMSの躍進は小野薬品のオプジーボだろう。
武田が1月にシャイアーを買収したので現時点では、30,948となり、僅差で8位のGSKを抜く。
しかしやはり1月に買収合意した10位のBMSと19位セルジーンの合計が37,826なので5位となり、武田シャイアーは9位。為替などで簡単に10位のGSKと入れ替わる。
シャイアーはこうしてみると、3年前はアステラスはもちろん、第一三共、大塚より小さかった。このとき買っておけば良かったというのは早計で、合併によって成長したわけだから、このとき買っても今のパイプラインがあるわけではない。
それにしても武田の合併だが、
製薬メーカーは規模が大きければいいというものではない。
製薬メーカーは規模が大きければいいというものではない。
やはり、品格だろう。
かつてのバイエル、リリー、メルクなどが好きである。
サイエンス。
サイエンス。
画期的なものを発明すれば尊敬される。
そのようなメーカーになるように合併すべきではないか?
今回BMSがセルジーンを買収したのは、レブリミド(97億ドル、多発性骨髄腫)の獲得もあるが、これからのがん治療で期待されるCAR-T療法が欲しかったということも大きいだろう。セルジーンは、この技術を持つJuno therapeutics(2013年設立)というベンチャーを2018年1月に91億ドルという高値で買収したばかり。BMSは1年遅れて今年1月にそのセルジーンを740億ドルで買収してそっくり手中にした。
遺伝子治療でもあり細胞医薬でもあるCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)は、ノバルティス、ギリアド、セルジーンの3社が世界を大きくリードしていた。それぞれのCAR-Tは、ペンシルベニア大、カイトファーマ社、ジュノ社によって研究開発されたもので、ノバルティスのキムリアは先月日本でも承認された。
BMSが新しい治療法、新しい技術を獲得しようとしているのに対し、武田はどうか? シャイアーは1986年にイギリスで設立された。以後、会社ごと製品を買収買収で成長し、最後は2016年に320億ドルで血液製剤のバスクアルタを買収した。
自社の技術で成長したわけでないから、研究力がどれだけあるか疑問である。
自社の技術で成長したわけでないから、研究力がどれだけあるか疑問である。
武田シャイアーは、ウェバー社長が単純に売上高でベストテンに入りたい、という希望だけの合併に見えてしょうがない。
そうはいっても、サイエンスの競争のような製薬企業ベストテンに日本の企業が入るのは、まあ気分が良い。家電、半導体、造船などの製造業が中韓に負けた今、この分野だけでも死守したい。本社がアイルランドに移転しないことを祈るばかりである。
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