高速夜行バスで和歌山にきた。
7月4日、朝着いて、和歌山城のあとは適当に思いついたところを歩き、午後になって南海電鉄極楽橋から山中を歩いて高野山まで登ってきた。
20230712 和歌山5 高野口から九度山まで
20230713 和歌山6 高野山に歩いて登る
15:05
高野山 金剛峯寺 の標柱
ここが結界、すなわち下界(と言っても山道だったが)から聖地への入口(不動坂口)で、こちら側には女人堂がある。
高野山は聖地の名前で、こういう山(峰)はない。標高900メートルくらいの平地で、1000メートルくらいの峰々に囲まれた盆地である。空海はよくこんなところを見つけたものだ。犬に導かれたという伝説も、この秘境性ゆえの創作か。
若くして名声を得た最澄の本拠地が都の丑寅比叡山であったのに対し、当時ここは、はるばる離れた人跡未踏のような奥地であった。
空海はここに来る前、高雄山神護寺にいたが、まだそちらのほうが便利である。と考える今の打算的な俗人とは違って、純粋に修行の場を探したのだろうか? そのあたりは知らない(昔読んだような気もするが、忘れた。もう興味もない)。
今まで登ってきた獣道のような山道と違い、高野山の聖域に入ると、都会のように広い舗装道路と塔頭など建物が並ぶ。密林の中に突如現れた、天空の、宗教都市である。
不動坂口からまっすぐ広い道路が伸び、ゆるやかに下っている。歩いてい行くと左に長い塀があり、見れば蓮華定院。
15:08 蓮華定院
表看板に六文銭があしらわれているところが観光寺院化している。真田親子が高野山に蟄居させられ、麓の九度山に降りるまで仮寓していたことを前面に出している。宿坊として営業していて公式サイトを見れば
エコノミー:襖仕切りの和室 (風呂・トイレ・洗面別)
素泊まり 9,200円
朝食付き 10,200円
二食付き 13,600円
トイレ付きの特別室だと素泊まり、食事付きがそれぞれ
24,500~31,000
風呂トイレ付の貴賓室だと
71,500~83,500
いい値段である。
15:11
徳川家霊台という案内板があったが、行かない。
帰宅後調べたら家康、秀忠の霊屋が2棟あるらしい。高野山は戦国末期、寺領17万石、僧兵3万を擁する大勢力であったが、秀吉に降伏、2万石を安堵され庇護を受けていた。だから徳川時代になって幕府から敵視されることを恐れ、忠誠の証として建てたという。
15:12 別格本山南院 浪切不動尊
本尊の木像、浪切不動明王は空海自作とされる。
全国に散らばる弘法大師伝説はたいてい嘘っぽいが、高野山だと本当かもしれないなと思う。しかし唐から帰国の際、嵐にあってこの像に祈ったら波が静まったという話を聞くと、やはり物語におもえる。
ここも宿坊を営業しているようだ。
大正時代まで日帰りは無理だったから、古くから各寺は宿坊を備えた。いまも117のうち51寺が宿坊を持つ。
京都市内で智積院、妙心寺、仁和寺などに泊まったことがあるが、朝食付きでも7000円くらい。高野山は高い。
疲れているせいもあるが、次から次へと寺院が並ぶと、門をくぐって中を拝見しようという気にならない。
15:13
「高野まき 花浅商店」という看板。
もちろんコウヤマキという植物は知っている。しかしこの店は何だろう?
苗か材木でも売っているのだろうか?
15:13
のぞくと枝がバケツに入っていた。
2,3本で550円という値がついている。誰が買うのだろう?
通りは誰も歩いていない。お坊さんが買いに来るのだろうか?
コウヤマキが自生するのは日本だけとは知らなかった。
空海は修行の妨げになるとして花や果樹の栽培を禁じたため、仏前に備える花の代わりとしてコウヤマキの枝が使われたという。今も全国の真言宗の寺はコウヤマキなのかな? ひょっとしてこの店は奥で全国発送でもしているのだろうか?
15:17
高野山全体の地図があった。
真ん中に金剛峯寺がある。
しかし高野山は「一山境内地」といわれる。つまり高野山全域が金剛峯寺の境内地とされ、周囲の117寺は塔頭寺院である。金剛峯寺の山号が高野山であるのに対し、他の寺院は山号を持たない。高野山の北の入り口、不動坂口に「金剛峯寺」という石柱があったのも、一山境内地だからだ。
しかし、それなら地図の一点に「金剛峯寺」などという寺を書かず、地図の上部に「金剛峯寺境内図」と書くべきではないか?
考えることはひとまずおいて、先を急ぐ。
お昼を食べていなかった。
高野山に来るにあたり、唯一調べたのが昼食だった。西のほうに高野山名物・胡麻豆腐を使った懐石ランチを2000円程度で出す店がある。
右に金剛峯寺が東門を開けていたが素通り。
すすむと高野山のメインストリートが東西に走っている。西に向かうと金剛峯寺の正門前に出て、そこが観光バスもとまれる駐車場のような広場になっている。
大きな寺寺の前を素通りして、金堂や根本大塔のある金剛峯寺壇上伽藍も素通り。
15:27
金山寺味噌をつけた冷やしキュウリが売っていた。
数年前、根来寺で400年以上前の金山寺味噌が発見された。
午前中、JR和歌山線で根来寺のある岩出を通過したとき、この味噌と、そのたまり液から独立した調味料として醤油が生まれた話を思い出した。
ずっと醤油は根来寺だと思っていたのだが、今回帰宅後調べると、
金山寺味噌というのは鎌倉時代、覚心という禅僧が宋にわたり、そこの径山寺(きんざんじ)で舐め味噌の作り方を学んで帰国、ここの金剛峯寺を経て、独立、開山した紀州興国寺(海に近い由良)の周辺で広めたとされる。つまり、たまり醤油は根来寺ではなく、興国寺であった。
「高野山麓、採れたて新鮮キュウリ 1カップ¥300」とある。
一本丸かじりかと思ったが、小さく切って上に味噌をかけてあるのかもしれない。
店には寄らず先を急いだ。
高野山は道路も広く観光客も多いのに、飲食店や土産物店があまりない。
15:31
目当ての「ごまどうふ・かどはま」に到着。
高野豆腐は信州の凍み豆腐みたいなものだろうから、たいして好きではないが、ごまどうふはうまい。ただ、昼時を過ぎて営業しているかどうか心配だった。
しかし定休日でなく「臨時休業」。
疲れて早く座りたい。
来る途中、ファミマがあって、店の前にテーブルと椅子があったことを思い出す。
コンビニ弁当でもいいや、と思って引き返す。
若いお坊さんがきてカフェラテだか何か飲み物をテイクアウトしていた。さっきのコンビニも修行のお坊さんがメインの客なのかもしれない。
バスは16:28に出発。
15:34
山中のファミリーマート
既に、二組が食べ物を買って外のテーブルにつくところだった。
15:34
他の数少ない店も昼と夕方の間は休みのようだ。
しかし多数の観光客は座ってお茶でも飲みたいだろう。どこに入るのだろうか。
素通りしてきた寺院(=宿坊)の境内に飲食、休憩所があるのだろうか?
15:36
壇上伽藍中門
ふつう、道路に面し寺の前にあれば山門だが、道路自体がすでに境内だから中門。
この門の奥に金剛峯寺の中心、金堂、根本大塔がある。真言密教の根本道場で、奥之院とともに高野山の二大聖地とされる。
先ほど横目で見て素通りしたが、今回も素通り。早くどこかで座りたい。
大駐車場のある広場まで来たら、デジタルミユージアムがあり、そこのカフェが開いていた。
15:44
高野山精進カレー、1180円。
胡麻豆腐がついていたから良しとしよう。
16:10
デジタルミュージアムはVRゴーグルをつけていろんなものを見るらしい。
もちろん入らない。
カフェのほうを見るとまた若いお坊さんがテイクアウトしていた。修行の妨げになるとして女、葷酒を禁じたのは昔のこと、今の若いお坊さんは私より世の中の流行を知っているのかもしれない。
遅い昼食を食べたら、もう下界に帰りたくなった。
朝、和歌山駅でもらった高野山の観光案内をみると、東のほうに空海入定の地とされる奥之院がある。そこに至る2キロメートルの参道は何百年も経た杉の老木がそびえ、木々のあいだに多数の大名の供養塔、石廟、墓所が並んでいるという。高野山の大きな見どころであるが、疲れているのか、ちっとも見たい気が起きない。もともと高野山は目的地ではなかったので、来たことだけでも奇跡。十分満足。さっさと帰りたい。
デジタルミュージアム、駐車場の前にバス停があり、そのまえに金剛峯寺の正門があった。
16:13 金剛峯寺正門
せっかくなので覗いてみる。
16:13
屋根は檜皮葺き。
16:14
帰りのバスの時刻を見てくるのを忘れたので退出。
16:20
バスの発車までまだ時間があったので再び境内に入る。
大広間の廊下を子供が走っていた。
大衆化して誰でも簡単に登山できるようになると、しつけのできないバカな親まで来てしまう。子供だってこんなところ連れてこられて迷惑だろう。
こういうとき係の者はきつく注意すべきではないか?
16:24
正門の脇に金剛峯寺の説明板があった。
金剛峯寺と言えば、平安時代初期に空海が建てた寺と中学校で習った。社会の先生は三文字のお寺は珍しいと言ったことを覚えている。しかし、ここの金剛峯寺の説明は西暦1131年覚鑁上人から始まる。まあ、空海存命中、高野山にはほとんど建物はなかったそうだが、それにしても空海の文字が一切ない。はて?
それから、金剛峯寺は一山境内地というのに、ここに正門があるのはなぜか?
帰宅後調べると、明治の神仏分離令で、秀吉が高野山(=金剛峯寺)に建てた青巌寺と興山寺が合併し寺号が金剛峯寺と改められた。これ以降、金剛峯寺は高野山全体ではなく、高野山真言宗の管長が住む総本山寺院を意味するようになったらしい。
西に向かい、胡麻豆腐角浜の前を通って、町石道に面した高野山西の入口、大門を経て、高野山駅に着いた。300円。
ここからケーブルカーに乗る。
16:43
ケーブルカーの高野山駅の二階待合室は展望が素晴らしい。
16:44
ケーブルカーは16:59発。500円。
17:03
ケーブルカーの終点、極楽橋が近づくと、私が登ってきた京大阪道がみえた。
大変な上りを経験したら下りは簡単だからまた歩けばいいのに、と思うだろう。
しかしあの道は疲れて暗くなったら危険ということが分かった今、もう歩いて降りようとは思わなかった。
17:09南海電車、極楽橋発、17:49橋本着
17:59南海(急行)、橋本発
大阪の中心、天王寺の隣・環状線の新今宮まで48分、18:47に着く。
もう家に帰りたいが、帰路も高速バス。発車は天王寺が21:45、梅田なら22:30。
もう見たいものはない。疲れた。
チケットは捨てて新幹線で帰ろうかな。
(続く)
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