2017年2月1日水曜日

高すぎる薬価1・利尿薬サムスカ

千駄木菜園 総目次


『新薬誕生』p363に抗がん剤グリベックの薬価を決める箇所がある。
議論の末、世界共通で一か月2200ドルになった。
インターフェロンとほぼ同じだが、効き目に雲泥の差があると、書いてある。

・・・・
一人暮らしの叔父が肺炎になって入院した。
彼は心臓弁膜症で浮腫があることから以前からサムスカの服用を勧められていた。この薬は強い利尿薬だから投与開始は入院して観察しなけれならない。叔父はのらりくらりと避けていたのだが、肺炎入院をきっかけに一気にサムスカ投与プログラムに組み込まれてしまった。

サムスカ(トリバプタン)は大塚製薬が創製したバソプレシンV2受容体アンタゴニストである。
薬価は、当初より少し安くなったが15㎎1錠で1948円。
現在飲んでいる同じ利尿薬のラシックス(フロセミド)は1錠たった9円である。
なぜ200倍も高い薬価が付いているのか?

薬価の決め方は二通りある。
ひとつは既にある似た薬の薬価を基準にする場合。もう一つは、類似薬効のものがないとき、製造原価を基に決める場合である。

サムスカは製造販売承認が2010年10月27日、薬価基準収載が2010年12月10日である。
このときの薬価算定はラシックスを基準にしたのではなく原価計算方式。
では原価とは何か?調べたら
 製品総原価が 1666.90円、
 営業利益が   555.70円 (流通経費を除く価格の25%)
 流通経費    182.80円 (消費税を除く価格の7.6%)
 消費税     120.30円、
合計2525.70円が薬価となったのである。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000wzt3-att/2r9852000000wzwx.pdf

しかし製品総原価とは何か?
利益分を除いた(普通の意味での)工場での製造原価は5円くらいなものだろう。構造式を見れば不斉炭素はあるが光学分割していないし、ラシックスが9円でも利益が出ていることを考えると、そんなものだ。


この2525円は、製造承認を得るためにかかった研究開発費と設備投資費をすべて合計し、それを(予想)出荷薬剤数量で割ったものであろう。出荷数量は想定患者数から予想するしかない。つまり患者を少なく自己申告すれば、高い薬価が付く仕組みである。

薬価算定材料として、初年度患者数はたったの2000人、予測販売額は0.5億円、ピークは10年目に11万人、27億円と予測している。5年くらいで総費用を償還できるように薬価を決めたのだろうか。(このあたり、私は知らない)。
本来はっきりしない数字をかけたり割ったりしただけなのに、1円以下、小数点2位まで出しているのが「ちゃんと計算しましたよ」と言い訳しているようで、おかしい。

とにかく初年度患者数2000人からして、これはオーファンドラッグ(患者数5万人以下)として認可されたのである。実際、希少疾患を対象とした医薬品として、開発には医薬基盤研が助成した(H18,19,20)
http://www.nibiohn.go.jp/information/nibio/2014/04/002715.html

ところがサムスカは希少疾患の薬としては使われなかった。
初年度2011年度、すでに10億円(全世界67億)、その後、国内だけで42億、100億円とのばし、2015年12月度(1~12月)は、国内だけで257億円、前年度の66%増である。
(全世界で415億、大塚ではエビリファイに次ぎ2位。特許切れの同薬にとって代わるかも)
http://www.otsuka.com/jp/financial/pdf.php?financial=407

もうオーファンドラッグではない。
心不全のむくみがラシックスでコントロールできなければ、医師はこれを処方したがる(医師と製薬企業の関係は知らない)。循環器学会から適正使用を求める緊急声明が出されているが、関係ない。
http://www.j-circ.or.jp/information/20131021_statement.pdf

毎日飲んだら薬剤費は月6万円、年間72万である。
薬価を決めたときは2000人で年間5000万円の売り上げを申告し、厚労省が承認した。このとき患者一人当たりの薬剤費は5000万を2000人で割って年間25,000円だった。毎日投与しないことを前提にしている。大塚製薬の売り上げが5000万円しかないから承認も迅速だったし、開発には国庫の助成もあった。

サムスカは初年度からその仮定が崩れた。大塚は最初から知っていたのではないだろうか? 年間5000万円なら開発するはずがない。承認段階での仮定が崩れたなら薬価は算定しなおすべきである。ようやく2016年3月4日、市場大幅拡大ということで25%の引き下げ対象となった。しかし有用性があるということで下げ幅が5%圧縮され、1948円となった。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000114726.pdf

この制度は、年間150億円以上の販売があり、薬価収載時の予想販売額と比べ実際の販売額が2倍以上となった製品が原則対象となる。自然と市場が拡大していったのなら、数年に1回の25%引き下げで良いが、オーファンドラッグとして算定したものが最初から違う目的で使われるなら、初期価格の算定基準が崩れる。それに市場拡大は2倍どころか、500倍である。下げ幅圧縮は必要ないし、そもそも全面的な見直しが必要ではないか? 
これでは健保が破たんする。

高すぎる薬価2 製薬会社の言い分
高すぎる薬価3 オプジーボ
高すぎる薬価4 ではどうしたらいいか


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2 件のコメント:

  1. 利尿薬は古くからあるお薬なのに、こういう新薬ができていたのですね。あー知らなんだ♪〜
    お勉強しました。ありがとうございます。

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    1. 200倍も高いというのは、普通の利尿薬ではないことを意味します。本来は希少疾患の薬だったものが普通の人にも出されている。国はこのことに敏感にならなくてはいけないのに、オプジーボのように騒ぎにならないと動かないようです。

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