2017年2月5日日曜日

高すぎる薬価2・製薬会社の言い分

サムスカの続きである。

「薬の製造原価が一錠たったの5円なのに、2000円もの高値で売っていいのか?製薬会社は儲けすぎではないか?」
という批判に、ロバート・シュックは、『新薬誕生』(2008)の序論で、
「では、巨匠の絵画の値段は、絵の具とキャンバスの材料費だけでよいというのか? 新薬の研究開発には莫大な費用が掛かっている」と反論した。

確かにそのとおりである。
新薬一つの研究開発費は1990-99年の平均で55億円、2000-2008年の平均では89億円という。
http://www.jpma.or.jp/about/issue/gratis/newsletter/archive_until2014/pdf/2010_136_12.pdf

しかし2008年ファイザーがトルセトラピドにかけた研究開発費は8億ドル、800億円である。(『新薬誕生』p432)。
工場での製造原価とは比べ物にならない。

これを回収するのは当然であるが、さらに重要なのは、会社はこの一つが承認されるまでに、いくつものプロジェクトが失敗していることである。つまり発売までこぎつけた薬からは、その研究開発費の何倍もの資金を回収しなくてはならない。

これを考えると、新薬の薬価で研究開発原価を基に算定する方法はまったく意味がない。正直に申告した研究開発原価しか回収できなければ、すぐ倒産する。だから原価算定方式は、企業も厚労省も、裏が分かっていて演じる茶番と云えよう。

幾つか思い出したことを書く。

1.1981年、製薬会社に就職して研修で工場に行った。
グルタチオンを製造する現場であったが、アミノ酸を三つ結合させただけで特許があるわけでないから、外国との価格競争があって全く儲からないものだった。しかし、ここでは1か月に2,3回だけ脳代謝改善剤を合成していた。これは非常に高い薬価が付いていて、それで工場を維持しているようなものだった。そしてその脳代謝改善剤の病院での効き目はあまりはっきりしなかった。
恐らくほとんどの製薬会社が似たようなものだろう。一つ新薬が出たら、会社全体がそこに乗っかり、そうせねば生きていけない。

2.2007年ころ、国内三本指に入る某大手製薬会社の社長は、これからは希少疾患の薬を狙うべきだと講演した。
「オーファンドラッグは、審査が早くて、開発費がかからない。そして難病治療には政府の補助があるから薬価が非常に高い。売上は薬価x数量である。だから、数量が少なくても薬価が高ければいいのである」と正直に、はっきりと仰った。製薬はビジネスである。

3.オーファンドラッグは開発費がかからない。
トルセトラピドが失敗するまでに8億ドルもかかったのは、生活習慣病の薬だったからである。コレステロールを低下させる薬剤で、競合品が多く、長期にわたり何千人もの患者に試験する必要があった。
一方、現在(2015年度分)、全医薬品売り上げランキングでベストテンに3つも入り、爆発的に売れている関節リウマチの薬は、TNFαをターゲットにしている。3つのうち最初に出たのは、レミケード(インフリキシマブ)である。この薬は、リウマチを狙っていたが、開発費用がかかるため、あえて患者の少ないクローン病を対象に開発を進め、上市した後、適応症を増やしていった(『新薬誕生』)。これをしなければ、このベンチャーは倒産し、リウマチ薬の登場は数年遅れたかもしれない。製薬会社の工夫として美談になっている。

4.難病で高い薬価が付いたものはおいしい。
一度ヒトに使われると、どんどん適用範囲が広がる。それで大成功したのがノバルティスである。サンドスタチンはある小腸がんの下痢(全米で2500人)につかわれるものだったが、一般の激しい出血にも使えることが分かり、7億ドル売れる商品となった。

5.高い薬価が付いた薬が出ると、患者が増える傾向がある。
例えば脊髄小脳変性症にセレジストがでたとき、患者が一気に増えた。難病に認定すれば、国庫補助が受けられ患者が助かるから、医師がそう診断し、オーファンドラッグであったにもかかわらず、この薬の売り上げは大きく伸びた。

6.αブロッカーのニセルゴリンは脳血管拡張薬としてイタリアで創製されたものである。日本に導入して脳梗塞後遺症に使うに当たり、そのままだと非常に安いα1ブロッカーと同じ薬価になってしまう。そこで日本の会社は、ネズミ脳組織を使った実験を行った。丸ごと動物を使う効果を見るわけではないから、工夫次第でそれらしきデータが出る。そして血管拡張以外の作用もあると主張し、非常に高い薬価を勝ち取った。

こうしたことを我々は批判するわけにはいかない。
製薬会社は合法的に操業している。
慈善事業ではないのだから、利益を最大にすることは当然である。
最初から儲からないようになっているなら、会社は存在しない。
かといって国営企業になったら、論文は出ても新薬は出ないだろう。

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