2018年7月7日土曜日

武田、シャイアーを選び、道修町を去る

武田薬品はシャイアーを約7兆円で買収することで先方と合意している。
私は無謀だと思ったが(→2018製薬ランキング)、貸すところがなくて困っていた銀行は喜んで融資するようで、経営陣はほぼ確実に買収を実行するだろう。反対意見も多いがサイレントマジョリティーか、もうあきらめるしかない。

(私がなぜ残念がっているかというと、武田は長年我が国の生命科学分野のトップクラスの学生を集めてきたのに、研究所の縮小、閉鎖で彼らの才能をつぶし、また現在の優秀な学生たちの就職先をなくしてしまったからである。また、シャイアーを買収すれば、外国人経営陣は本社をアイルランドに移転することもあるだろう。そうなったら、もう日本の会社ではない。一時はブロックバスターを4つも持ち、日の丸製薬業界の星、誇りであったのに。)

ところで、
話が出た今年の3月、買収騒ぎの陰で話題とならなかったが、武田は東京日本橋の東京本社(昔は東京支社といった)を建て替えた。すなわち24階建ての武田ビルが竣工した。
3月20日付で、竣工と、ここをグローバル本社とする旨をプレスリリースしている。
武田HPから

そして先週7月2日、武田グローバル本社はグランドオープンした。
プレスリリースを見れば、佐藤可士和氏のデザインで、製薬企業らしく、人間の『生きる力』すなわち『生』『水』『光』『土』『木』『人』『絆』『未来』の8つの漢字をモチーフとしたアートワークがエントランスから会議室まで飾られている。
壁面は『未来』という漢字(武田HPから)

ところで、この日本橋にあった東京本社はあくまでも東京地方における本社であり、武田の本社はずっと大阪道修町であった。
いま、この地下4階、地上24階の武田タワーの4階以上をオフィスにするとなれば、大阪の武田本社とは何だろう? グローバル本社が東京で、日本の本社が大阪というのも変だ。近畿地方の営業所くらいしか意味がない。

案の定、昨日7/6の毎日新聞で大阪本社ビルを売却するニュースが出ていた。600億円という。少しでも買収資金の足しにしようということか。

武田がなくなることは大阪にとって痛いだろう。
薬の町、道修町というブランドにも痛い。
武田は、1781年、いまの大阪市中央区道修町で創業した。田辺、小野、塩野義、大日本(大阪製薬)、藤沢など、ほとんどの製薬会社がこの狭い道修町から大きくなって、本社を構えた。

私は1981年、田辺製薬に入社し、1週間ほど道修町本社で研修を受けた。
毎朝、車も通らない狭い通りの、両側に並ぶ各製薬会社の看板をきょろきょろ見ながら出勤した。小さい会社は朝から薬品の段ボールを台車に積んで運んでいた。

こんな狭いところだと顔見知りになるようで、数年後本社に出張した時、本社勤務になった友人と朝出勤すると、当時珍しかった外国人が同じ地下鉄淀屋橋だったか北浜駅だったかで降りて同じ道をいくと、彼は武田の社員だ、と教えてくれた。

田辺製薬を退職した2013年、何十年ぶりかで道修町を歩いた(→緒方適塾)。
32年いた会社の本社を見たかったのと、入社した若いころを思い出したかったからである。

このとき神農さん・少彦名神社、くすり博物館も初めて行った。
そこに道修町の移り変わりの地図があった。

明治のころは、個人名である。
無数の薬問屋があって、小野市兵衛、藤沢友吉なども、他の店と同じ間口で営業していたことが分かる。小野の隣の少彦名神社は薬祖神社と書いてある。
田辺や武田長兵衛商店は写真の左端で惜しくも切れている。全部撮ってくればよかった。

昭和15年、依然として多数の薬問屋があるが、大きな店と小さな店に分かれてきている。田辺五兵エ商店、大日本製薬株式会社、武田長兵エ商店、塩野義商店が見える。

平成25年、だいぶ商店が減り、株式会社となった現在の製薬会社は周辺の土地を買収し、大きくなっている。

私が入社して歩いたのは昭和56年、この図の32年前、もっと多かった気がする。廃業した商店も多いだろう。成功して残った企業も東京に進出した。

大阪の企業はどんどん本社機能を東京に移し、地盤沈下が続くという。
道修町は昔の姿を残す数少ない町であったが、もはや風前の灯火かもしれない。

それにしても武田。
グローバル本社なら成田に近い筑波でもいい。筑波には自社の研究所もあったし土地はふんだんにある。
しかし、つい数年前、大阪十三の研究所を閉鎖し巨大研究所を作るとき、筑波拡張ではなく(のちに閉鎖)、新たに湘南に建てたのは、関東だけでなく関西の大学からもアクセスしやすい土地を選んだのではなかったか? その湘南研究所ができた途端、研究所は縮小、分社化してしまった。使い道のなくなった研究施設はベンチャーに安く(無償で?)貸すくらいしかない。どうもちぐはぐである。

そして、今回の買収。
近年、海外新興製薬企業の売り上げは急に伸び、急に衰退する。シャイアーは今がピークだろう。ここの製品の売り上げで7兆円をカバーできると思えない。

日本人なら国益(死語?)とか考えただろうが、ウェバー社長には関係ない。
有望な薬は会社ごと買収すればいい、と割り切った。金がすべて。
何と夢のない会社だろう。
             ・・・

2018-07-07 今朝の千駄木菜園から
トマトは初物。
キウリは途中で腐り始めるものあり。


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